コロナ期に広がる自動車によるカーデモ:自動車による社会運動というアメリカ的伝統?

車を使ったカーデモがアメリカやブラジルなど世界各地で広がっている。日本でも実施できないだろうか。

もし日本でも首相官邸前とかで実現したら圧巻の光景になるだろう。4月14日には渋谷で「要請するなら補償しろ」デモが感染を拡大すると非難されたが、これなら安全に訴えられる。声を上げること自体を非難してはいけない。行政が補償を出さず放置すれば、困窮すれば人々は感染拡大のリスクを押しても止むなく声を上げる。でないと生きていけないから。個々人の過ちではなく、システムエラーだ。広げている根本を断たないといけない。

 

そこで日本での実施の参考になればと思い、以下の記事を参考にコロナ禍のカーデモについて解説をしてみます。

edition.cnn.com

 

 

移民局や留置所での拘留状態へ多数の訴え

日本の入国管理局と同様に、アメリカでも移民局は非人道的な対応で知られている。アリゾナ州のフェニックス近くの街イーロイの移民留置所では、医療体制が整わぬなか拘束が続いたことで新型コロナウイルスへの感染が増加したことに対して抗議行動が起きた。特に移民局や留置所で拘束状態への抗議の事例が多く見られる。その他、ミネソタ州セントポールペンシルバニア州フィラデルフィアミシガン州都ランシングで、「正義のクラクション(honk for justice)」が鳴らされている。

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フィラデルフィア市庁舎の周りを取り囲む200台ほどの自動車。違反切符が次々と切られている。

また、不十分な経済措置に対する抗議も起こっているのは想像に難くないことだろう。ポーランドのクラカウやブラジルのサンパウロなどの例がある。ミシガンのランシングで予定される建設業者による抗議行動は、自家用車だけでなく工事車両、トラックやボートも出動することで、現場に出られない建設業の疲弊を路上に示すという。

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ポーランドのクラカウで経済救済を求める抗議。

 

 

カーデモの歴史

カーデモの歴史は古く、1964年にはニューヨーク万博への道を車で封鎖し、大規模イベントの背後にある人種差別を訴えようとした。「ハンパク」が60年代のアメリカでも起こっていたことは興味深い。結果的には登録者数が集まらず失敗に終わったようである。

1979年には農業生産者が低下する買取価格に歯止めをかけるよう訴え、トラクターで首都ワシントン大通り(Mall)を封鎖する「トラクターケード(tractorcade=トラクターのアーケード封鎖)」を起こした。

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1979年ワシントンDCでのトラクターケード

ちなみにこのtractorcadeという言葉、1979年の一件だけを指す固有名詞ではない。2011年のウィスコンシン州のマディソントラクターケードのように抗議行動のものもあれば、アイオワ州のように農業記念のイベント化しているものもあるようである。

 

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突き上げた拳のシンボルマークを掲げるStand with Wisconsin

whoradio.iheart.com

     アイオワ州で20年続くトラクターケードイベント

 

 

ネットデモVSカーデモ

路上デモが困難な今、ネットでの抗議行動は拡大している。「#自粛は補償とセットだろ」などのハッシュタグをつけてTwitterInstagramなどソーシャルネットワークSNS)で発信するものはネットデモと呼ばれる。外出できない現在、「現場(フィールド)」がデジタル化によって再構成されつつあるのだ。だが、そこには限界もある。例えば、SNSではアルゴリズムでグルーブ化がなされ、見ている時点で既に意見が合う人とつながるようにできているというものがある。所詮ガス抜きに終わるのだという見方もある。 それに対して、カーデモは、実地の路上空間に比較的安全に出ていくことができるメリットがある。記事内の政治学者は「反対意見のアピールを社会に示し、分断を超えるには実地で訴える力は大きい」と指摘している。路上でのアピールは、マスメディアに大きく「画」として取り上げられるなどして強いイメージを社会に届けられるのだ。

他方で、カーデモにはデメリットもある。車内にいる必要があり参加者同士がつながりにくい。また、過度な威圧感が警察の圧制を招くとも言われる。自動車は一種の武力となるので、集会風景も恐ろしく、警察がすぐに市民を鎮圧できないという不安感を有無という点でも、対応する当局にとっては脅威となりより強い軋轢を生むおそれがあるというのだ。

 

 

自動車による社会運動 social movement by car

ところで、このカーデモのような車を使った運動をアメリカ的文化の伝統とみることもできるのかもしれない。教会牧師の説法にも、自動車を使って各地を巡るという方法がある。

1948年エホバの証人牧師が言論の自由をめぐって最高裁裁判で争った興味深い一件がある。エホバの証人は、1870年代にアメリカのピッツバーグでチャールズ・テイル・ラッセルによって生まれた新宗教である。日本でも訪問宣教で知られるように、その組織は彼の死後も組織化して世界に広がり、積極的に非信者への宣教を行う。そこで街宣車が、非信者である聴衆に広く声を届けられる有効な手段として採用されたのである。裁判では、公に音を鳴らすことは信教の自由にどう含まれるのかが裁判で争われた点で、法的に重要な件でもある。つまり、警察がライセンス更新を許可するかしないかの判断する時、「音がうるさい」ことが理由なのか「信仰の中身」が問題なのかどうやって線を引くのかという問いである。裁判では、街宣を許可する制度は「新教の自由」の観点から憲法違反とされたが、エホバ側の主張として「音を公で出すこと=非信者への宣教」は、手段ではなく信仰の中身と切り離せないものだ、と主張された。これを「街宣車の宗教(sound car religion)」という用語で考察している宗教社会学の研究もある。

books.google.co.jp

アイザック・ワイナー著『信仰を声高に言う(Religion Out Loud)』(NYU Press、2013年)

カーデモにも見られたように、公で声を上げる運動にクルマを使うのが非常にアメリカらしい。異なる背景を持つ多様な人々を内包するアメリカ社会では、世の中で広く声を届ける手段として街宣=ストリートを使う習慣も根強い。それが自動車大国アメリカのアイデンティティと結びついたものが、「自動車による運動」なのかもしれない。

 

追記4/25:フィールドワーカーのためのウェブマガジン『FENICS』で、改稿版の連載を始めました。

「コロナ禍のフィールドワークとアメリカのカーデモ (連載1)」

fenics.jpn.org

追記5/25:連載二回目が公開されました。

「コロナ禍のフィールドワークとアメリカのカーデモ (連載2)」

fenics.jpn.org

 

 

 

想田和弘『精神0』@仮設の映画館プロジェクト:上映文化の存続のための「映画の経済」

ドキュメンタリー映画監督の想田和弘さんが新作の『精神0』を、「仮設の映画館」で上映公開します。

『精神0』 2020年5月2日(土)10:00〜 配給:東風

渋谷シアター・イメージフォーラム、岡山シネマクレール他

seishin0.com 

 

※追記:ちょうど取材地の岡山出身だったこともあり、「被写体になること」という観点から感想を書いています。

phoiming.hatenadiary.org

 

つまりはオンラインでの配信ですが、その仕組みは、配信の仕組みの使用料(約10%)を差引いた後、映画館と配給会社で半々で分配し、さらに配給と製作者で売り上げを分けるという方法です。コロナによる文化事業の経済苦境にあって、一般的な興行収入に近づけた「映画の経済」の仕組みの維持を目指しています。「仮設」という言葉には、現場に集いにくいこの時期を乗り切り、「映画の上演」という文化を生き残らせようという意図が込められているように思います。
まず歪みが生じたのはミニシアターで、アップリンクによる配信やクラウドファンディングなどの活動が少しずつ知れ渡り始めていますが、今回の件では、配給会社や監督をはじめ映画製作者の方々への想像力を喚起することになるといいなと思います。幸い大反響のようで、民放テレビ番組、全国紙、地方紙、ウェブメディアなど各所で取り上げられています。
 
アップリンク独自の見放題配信の開始

www.uplink.co.jp

 

「ミニシアター・エイド基金クラウドファンディング

僕の故郷の岡山では、彼の地の映画文化を支えてきたミニシアターシネマクレールが上映館になっています。高校時代に映画の力を教えてもらった場所です。この仕組みが単なる延命策ではなくポジティヴな強みもあるのではないかと感じるのは、インターネット経由なのでどの地域の映画館でもサポートできるという点です。地域間の経済格差も文化政策における大きな課題の一つですが、この点も今後の「映画の経済」(や広く「文化の経済」と言うべきかも)に対してある種のモデルとなるかも知れません。

 

シネマクレー

www.cinemaclair.co.jp

山陽新聞(岡山圏域の地方紙)

 

www.sanyonews.jp

※追記

「仮設の映画館」には、「上映前の注意動画」もあれば「舞台挨拶」もあります。この仮設感(というか仮想感)が、とてもいいですね。

 

舞台挨拶:「仮設の映画館」『精神0』想田和弘監督 & 柏木規与子プロデューサー 初日舞台挨拶
https://www.youtube.com/watch?v=3uc7kJ39gVg&fbclid=IwAR2ZNpONTsfCAPLOiI1JLBC_jpPFEPYwt1GtfVv53B6zKrYiVwUxlPFvoMQ 

 

仮設の映画館で『精神0』を観るのに向けて、ステイホーム・シアターもはじめました。 試写に想田和弘監督の『港町』を「天然色版」で観たのですが、なかなか良かったです(安価なプロジェクターだと色調の再現が甘いですね)。まずは「仮設の映画館」初上映作『春を告げる町』を観てみようかと思います。

https://scontent-nrt1-1.xx.fbcdn.net/v/t1.0-9/95834873_10157285942811985_3055878783111266304_n.jpg?_nc_cat=106&_nc_sid=110474&_nc_oc=AQlYMTx1PUEfkk130XFFtQV30jUsgSDx2Rqo8grOyaAUkSiknVxoCE66j-pzNgO0w78&_nc_ht=scontent-nrt1-1.xx&oh=87d5393d17b22d180d0e89af063eed48&oe=5ED18519

 

上映日のタイミングでパンフレットを購入してみた。「物販」も仮設中。

ここは、工夫したらより面白くてマネタイズにもなるサービスが作れそう。ネットで読むパンフとか、監督や評論家が選ぶ関連作品10本ストリーム+レビューとか。

 

 

 

 

あいちトリエンナーレ2019の記録集にラーニング企画の美術評論を書きました

昨年行われたあいちトリエンナーレ2019の記録集に評論を寄せました。

pdf版でも公開中です。

追記:残念ながら紙媒体は部数がとても少ないそうです。増刷を検討中とのことで、ご希望の方は事務局までメールで熱望を伝えると良いかもです。電凸はしないでください(笑)。

 

小森真樹 「美術館の近代を〈遊び〉で逆なでする――あいちトリエンナーレ・ラーニングプログラム『アート・プレイグラウンド』」 
『あいちトリエンナーレ2019 ラーニング記録集』(2020年、pp.41-48)

 

DLできます:https://aichitriennale.jp/archive/item/at2019_learning.pdf

あいちトリエンナーレその他の報告書はこちら 

 

あいトリは複数の部門で展開しましたが、本書は「ラーニング」部門ーー舞台や音楽、展覧会企画と並行して行われた美術教育プログラムーーの記録集です。拙稿では、実施された「アート・プレイグラウンド」の企画について、ミュージアム研究、文化人類学、美術史等の観点から解説をしています。

 

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「主体的な学び(ラーニング)」というフレーズを一度は皆さん聞いたことがあると思いますが、それくらいに日本でもラーニング教育は普及しています。欧米の美術界に牽引されながら、美術館において実験的な美術教育を行うことは日本でも普及してきました。今回のあいトリでも、ラーニングのキュレーターの会田大也さんの企画、アーティストの日比野克彦さんと建築家の遠藤幹子さんのリード、そして各所のコーディネータとスタッフたちの協働作業によって、まさにこの種の実験的で「作品」と呼ぶべき教育企画が行われました。しかし、こうした胎動する現場に比べ、美術の言論では教育活動をうまく評するものが少ないと感じてきました。そこで今回、美術批評とミュージアムの現場との橋渡しができればと思って論を寄せました。教育をテーマにした実験的な試みがアートシーンに増えたことは「教育的転回」などとも呼ばれますが、こうした立場から、キュレーションや美術作品と同じように、教育プログラムにももっと創造性があると評価できるのではないかという投げかけでもあります。 

 


2019年のあいちトリエンナーレでは、不幸にも、「表現の自由」が失われつつある芸術をめぐる現在の状況を象徴するような事件が起こり、そこに議論が集中してしまったきらいがあります。しかし、現場では表現の自由を守ろうとする人々の動きがありました。展示を見ることもしない人々がウェブ上で「炎上」させ続けた「表現の不自由展・その後」のすぐ隣りでは、アート・プレイグラウンドで子供たちが「交流」し、思想信条を超えて来館者同士が深い「対話」を交わしていました。ここでは、未来と社会の「公共性」が育まれていたと感じています。

この様子が克明に記録された報告書の「TALK 受け手ノート」には勇気をもらいました。本件で主に焦点が当たってきたのは、炎上の火種となった右翼の活動や、芸術監督の津田大介さん、抑圧したり援助する政治家たち、文化庁とその背後にいる日本政府、そしてもちろん、アーティストのボイコットやカウンター的活動です。本書が描くのは、「現場のスタッフと来場者」というもう一つの顔です。

 

今回の取材の中では、キュレーターの会田さんにインタビューさせていただいたことで大きな刺激を受けました。また別の機会には、会田さんの他の作品とも併せて考えてみたいと思っています。

 
 

 

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コーディネーターの野田智子さん(Nadegata Instant Party)が頑張って編集してくれた報告書がクールなので紙媒体もぜひ

 

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おまけ:あいちトリエンナーレや表現の不自由展についての参考図書

 

コロナウイルスとミュージアムとデジタルと。

先般よりコロナの件を受けて、しばらく放置していたこのサイトをまた動かすことにしました。

 

都市の封鎖や外出の自粛が続くなかで、モノをひろげて・しめす(=展・示)場所であるところのミュージアムでは様々な試みがなされています。コンテンツを送り届けようとする方も、それを楽しむ私たちにとっても、ミュージアムが物理的な場(サイト)に強く依存していることを再確認することになったのではないでしょうか。

 

筆者は、ミュージアムという「場」が持つ特性に重点を置いてミュージアムを研究してきました。ミュージアムにおけるデジタル化についてもその点から関心を抱いています。今まさに、ミュージアムや展覧会の「現場=フィールド」概念が変容しているのではないかと思います。

 

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手始めに、コロナウイルス蔓延以降のミュージアムの対応について調査しています。また、四月から予定していた大学での授業がリモートに移行になったことに伴い、「デジタル人文学/ミュージアム」についての内容に組み直しています。

 

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ユベール・ブルダ著『デジタル驚異の部屋』

 

[参考文献]

小森真樹「デジタル・ミュージアム・研究 : デジタル時代のミュージアムとモノと場所」『立教アメリカンスタディーズ』40、2018年。

ーーー国内外のミュージアムによるオンライン上での試みをいろいろ紹介した論文。

 

 

追悼:新型コロナウイルスで亡くなったファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレンシンジャー(FoWの最新映像アリ)

4月1日に新型コロナウイルスで惜しくも亡くなった、ファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレンシンジャーについて追悼文を綴りました。

2日に草稿を書いてから改稿を繰り返していて、文字数も公開までの道のりも長大なものになってしまいました。知る限りでは、アダムはもとよりファウンテインズ・オブ・ウェインについて日本語で書かれた最長の評論(約17,000字)ではないかと思います。

 

 

コロナとアダム

突然の新型コロナウイルスの報せ

ファウンテインズ・オブ・ウェインのメンバーであるアダム・シュレシンジャーが新型コロナウイルス(COVID-19)を発症したというニュースが、数日前入ってきて不安になっていました。その後、もう一人のメンバーのクリスのツイッター投稿では「入院はしたけど回復傾向にある」とのことだったので、重くは受け止めていませんでした。

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病状を心配するクリスの投稿

しかし、翌4月1日、日本時間では早朝になりますが、合併症を起こして息を引き取ったという報せが入りました。愕然としました。以来喪失感の只中にいます。そして、現在のコロナをめぐる混沌の季節にあって初めてコロナウイルスに対する忌避感と怨恨のような気持ち、静かな恐怖を強く覚えるようになりました。 

 

訃報と実感:「コロナ」の浸食

筆者は、普段ならばいわゆる著名人の死を大きく受け止める方ではありません。ですが、ティーンのギターキッズとしても、またアメリカ文化の研究者としても、彼の音楽とその世界観に少なからぬ影響を受けてきた身としてはショックが大きく、未だ心に曇りが残ります。

私たちは日々コロナウイルスで失われる命の「数」を聞き続けています。ところが、イタリアを始めとした世界各地で亡くなられる方が増え続けるのを知ったとしても、これまではその事実に対して「距離」をとれてしまっていた。さらには自分が住む東京でさえもそうでした。しかしこの件を通じて、次第に「死」が近づいてきたように感じています。蔓延する「死」が、これまでは自分のものではなかったことに気がついたのです。

自身を構成するカルチャーを生んだ人物が失われたこと。それは、未来の自分の一部が失われたのだという感覚でもあります。加えて現在の都市封鎖的な危機状況では、美術、演劇や音楽の興業、飲食店や書店といった文化の担い手たちが苦境に陥っています。社会が救えるのならば、文化・芸術への被害を最小限に留めてほしい。切実に思います。

逆に、自身の生命の危機に対する恐れもここから生まれてきました。なるほど実感にはこういう順序があるんだなとも思ったのですが、今回の感染症には同じような受け止め方をしている人が意外に多いのではないかとも感じました。新型コロナウイルスは、感染者が高い確率で症状に気づかず、重症化率も比較的低い。そのため潜在的な感染可能性を予測しながら社会機能を大幅に制限する必要がある。こうした特徴があるからです。つまり、実感が湧きにくく、より「目に見えない」のです。これに対して、各国は各時点で人々の行動を制御するために、正しく恐怖心を煽ろうとしたり経済補償をしたりと画策していますが、現時点(4月13日)では日本社会はそのことに成功しているとは到底思えません。

さて、以下では追悼の意味を込めてアダム・シュレシンジャーの仕事について振り返りたいと思います。他方でこれは、筆者が自分自身に向けて書いた日記のようなものでもあります。ショックを受け止めるためにも、個人的な思い入れや経験を言葉にしてみます。*1

 

アダム・シュレシンジャーの仕事:①バンドマン ②音楽プロデューサー

アダム・シュレシンジャー(Adam Schlesinger)に関する最も王道の説明とは、1990〜2000年代にいわゆるパワーポップバンド*2として活躍したファウンテインズ・オブ・ウェインFountains of Wayne)のメインメンバーでベーシスト、そして映画やテレビや舞台の世界で大活躍した音楽プロデューサーというものでしょうか。

 

このような彼の幅広い仕事を振り返ったとき、広く娯楽産業に貢献したと評価するのが妥当なのだと思います。ノミネートされたのはアカデミー賞ゴールデングローブ賞エミー賞トニー賞とあらゆるところで評価され、ドラマ『クレイジー・エックス・ガールフレンド(Crazy Ex-Girlfriend)』ではエミー賞を受賞しました。現代アメリカを代表する作曲家・プロデューサーの一人でしょう。一方日本に限れば、やはりインディーロックの大御所として知られていてパワーポップ好きのギターキッズを生み出した功績が大きいのではないでしょうか。かくいう筆者もそのうちの一人で、今でも時々ギターを手にすれば彼らの曲を爪弾いてしまいますが、くるりとかトライセラトップス、アジアン・カンフー・ジェネレーションなどといった歌心あるバンドのシーンを育んだのではないかと思います。以下では、アダムの功績を(1)バンドフロントマンとして、(2)プロデューサーとしての二つに分けて話をします。

 

①バンドでの活動

A.ファウンテインズ・オブ・ウェイン

出身とバンドの結成:アメリカ東部・郊外の記憶

ニューヨーク・マンハッタンに程近いニュージャージー州モントクレアでユダヤ系の家庭に生まれ、高校時代までを過ごしたアダムは、1995年に大学で出会ったクリス・コリングウッド(Chris Collingwood)とファウンテインズ・オブ・ウェインを結成します。曲のクレジットでは二人の名前が併記されますが、実際のところ共作をしていないことが知られています。これについてアダムは「あいつの曲の特徴がどうのこうのと言われたくなくて、バンド全体でアイデンティティを持たせたいから」と述べているように、曖昧にしたのは意図的であるようです。

Facebookのファングループで、諸々の情報源からどちらが作曲したのかを全曲予想したリストが共有されています。]

 

一方のクリスは、ペンシルヴァニア州ブーン郡のセラーズヴィル出身。近隣の大都市はフィラデルフィアで、二人が住んでいた街は車で数時間程度の場所ではあるものの、経済・生活の都市圏が異なります。つまり同じ東部出身でも、幼少期に見ていた風景がやや違うはずで、後で触れますが、このあたりは彼らが主なテーマとする「アメリカの郊外」のモチーフがどこから来たのかを考えるとき興味深い点です。筆者も一時期フィラデルフィアに住んでいたので、まさにセラーズヴィルあたりの可愛らしいダウンタウン、モントクレアあたりの箱庭のような家々が並ぶ景色が目に浮かびます。

 

彼らの歌詞には、ハッケンサック(Hackensack、モントクレアよりもうちょいNYC寄り)やファイア・アイランド(Fire Island、NYCから東のロングアイランド島の下端)などと具体的な地名や固有名詞がたくさん登場します。二人がこれまで暮らしてきた記憶が入り混じり、モザイク状に「アメリカの郊外」を描いているように思います。また、彼らが通ったマサチューセッツ州のウィリアムカレッジは、大西洋に面した州都ボストンとは全く逆の西端に位置しており、国立公園だらけの森の中にあるキャンパスタウンです。アメリカ合衆国建国の時にイングランド人が入植した、冬には氷点下10℃越えの寒い土地で、「Winter Valley Song」に出てくる「ニューイングランド」はこの辺りのことです。

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サウンド:「はずし」とサンプリング的なオールディーズの引用

パワーポップ」と一口に説明されることも多いのですが、そのサウンドについて詳しくいえば、「王道」というよりも「はずし」があるところに魅力があると思います。曲のコードにはシンプルよりは工夫された展開があり、手癖でサスペンドが細かく入ったり(例えばsus4などのこと)、コードが変わるタイミングがちょっとだけズレていたりします(「Radiation Vibe」)。シャッフルしたリズムのアコースティックギターが支えるカントリー的なものも多く(「Hang Up On You」「Hey Julie」)、繰り返しが続く歌モノの楽曲に深みを与えています。エレクトリックギターには、しっかりエフェクトを効かせながらファズのチープさを強調したりします(「Lost in Space」)。なんだかどこか懐かしい。

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こうしたノスタルジックな音作りは、過去の作品を参照するサンプリング的な作法にも由来しています。最大のヒット作「ステーシーのママ(Stacy's Mom)」のギターリフが、カーズの代表曲「Just What I Need」をほぼ引用しているのはよく知られているのですが、その他にはキンクスやビッグスターなどにも強く影響されていて、彼らがオマージュするバンドを時代のセンスで蘇らせるような、いわば演劇的なところがあります。

 

ロディックで秀逸なソングライティングだけでなく、1960〜70年代のクラシックなロックやカントリーに裏打ちされていることで、単にポップなイージーリスニングを超えた安定感が生まれているように思います。セカンドアルバム『Utopia Parkway』の時にポージーズのドラマーのブライアン・ヤング(Brian Young)が加入するのですが、オーディションで彼が叩くのを聴いたアダムとクリスが興奮したのが、Steve Miller Bandの「Swingtown」のリフだったといいます。泥臭さを残す70年代のブルースロックです。

過去のバンドへのトリビュートについていえば、筆者がすごく好きなのは、キンクスのBetter Thingsのカバーです。1981年にリリースされた本家の方は、シンセサイザーのようなヘナヘナした音をギターで出して脱力感満載なのですが、こちらはアップテンポにクリスが渋めのボーカルを聴かせてくれ、沁みます。

 

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歌詞:小説的な世界観で描かれる「古き良き時代」の超=現実性

このように楽曲様式ではロックやフォーク、カントリーなどを引用することで「古き良き時代」を”再”演しているのですが、実はこれが、小説的な歌詞の描く世界観とも共鳴しています。上で触れたように、アダムが生まれ育ったニュージャージー州に典型的な「アメリカの郊外」の風景とは、冷戦期以降のアメリカ社会にとって、まさしく「古き良き時代を表象する場所」なのです。

 

理解のため、少しだけアメリカの歴史の話をします。第二次大戦後に経済的急成長を遂げたアメリカは、1950年代には「普通の人たち」も核家族(home)として家(house)を持って幸せな一生を過ごすことができるのだ、という理想の「型」が生まれました。これがアメリカン・ドリームと呼ばれるものです。つまり、中産階級が消費者層として立ち現れ、それに合わせた「人生の商品化」が行われたのです。この舞台こそが、ロングアイランドのレヴィットタウンという建売庭付一戸建て計画都市に代表されるような、ニューヨークやフィラデルフィアなど大都市の郊外だったのです*3

 

時代が下り、郊外の放つ光だけでなく影についても語られるようになります。今では「郊外」こそが理想の暮らしだ、とイメージする人は多くないのではないでしょうか。ある時期から「郊外」には、ムラ社会的な息苦しさ、人々の生活の画一化による不健全、白人による人種的排他性といったネガティヴなイメージがついて回ります。ティム・バートンの『シザーハンズ』に描かれる、はぐれ者を排除する世間です。日本でも、大規模団地などが「郊外の闇」と語られるのがそれに当たります。

 

こうした郊外の物語ですが、ファウンテインズ・オブ・ウェインの描く「アメリカの郊外」の世界にはちょっとひねりがあります。「古き良き時代=場所」の再演ではあるのですが、人々の暮らしぶりへの愛のあるまなざしが存在するのです。確かに、そこでの生活は「退屈」や「平凡」が支配する世界にも見えます。しかし、固有名詞で解像度を上げ徹底した現実味を与え、パロディっぽくそれらを描くことによって、「郊外の闇」の奇妙さを面白おかしくも見せてくれる。そんなねじれた愛のある目線を感じるところに、筆者は惹かれてきました。「善き郊外」も「ダメな郊外」をも通過した上で、徹底したリアリティにちょっとした「はずし」を与えてその現実を超越する、いわばシュールレアル(超=現実)なところがあるのです。

 

歌詞:ノベルティソング的な笑いと批評性

徹底したパロディ化によって笑い飛ばすという方法は、ノベルティソング的なそれだとも感じます。ノベルティソングは、日本でイメージしやすいのはコミックバンド的なものですが*4アメリカのノベルティの歴史では、もう少し別の形の伝統があり、それはキッチュさによる風刺・社会批評です。例えば、スパイク・ジョーンズはドタバタ喜劇(スラップスティック)的にクラシック音楽を再演しています。この作品は、笑いによって原曲・ジャンルのもつ高尚さを批評しつつ、大衆的な娯楽へと化粧をしなおしているとみることができます。

 

ファウンテインズ・オブ・ウェインが持つ、過剰に超現実な郊外へのまなざしには、ノベルティソングのもつ大衆性(笑い)と批評性(歴史への自己言及)と似たものを感じます。これもとても魅力的な点だと思います。楽曲を取り上げてみましょう。アメリカで最もヒットしたのは「ステーシーのママ(Stacy's Mom)」ですが、このことも本国でもやはりこの点が魅力的なのだと納得させられます。

 

この曲で歌われるのは、小学生の男の子がガールフレンドの家に遊びに行きたがるのですが、その真意はママへの下世話な恋心があるという話です。タオル一枚のキワどい姿のお母さんに翻弄され、「ねえ、僕お手伝いよくやったでしょ?」とチャイルディッシュなアピールをする可愛いオトコノコです。そのお手伝いの「芝生刈り」とは、郊外庭付一戸建てにつき物の家事で、「日曜のお父さん」が行う典型的な仕事です(芝生が荒れると資産価値が下がるので、サボると近所からバッシングされます。そう、「憑き物」なのです)。この超がつくほど平凡な生活に潜むリアルと可笑しさと脱力感が、アメリカ人の多くが感じたことのある「郊外あるある」として語られていることが大衆にうけたのだと思います。

いい意味では奇抜な目新しさ、悪い意味ではそれ「らしい」だけの作り物感といった両面があるノベルティソングですが、単なる可笑しさ・ギャグの曲というだけでなく、それ「らしい」キッチュで目を引く作り物の美学が効いています。

 

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メジャーなインディー、メジャーなオルタナ

ちなみに、この曲はアメリカだと本当に誰でも知ってるんだなと感じたことがあります。フィラデルフィアに住んでいた頃、友達が大きなステージのあるカラオケバー(いわゆるピアノバー)で誕生日会を開いたとき、たまたま歌ってみたのですが、観客が皆大合唱で盛り上がっていてその知名度に驚きました。今回の訃報も、音楽メディアというよりも、大手メディアのCNNやニューヨークタイムズ誌ですぐに速報が出るような反応でした。

米公共ラジオ局のNPRには、各種ジャンルのミュージシャンが、ワシントンDCのスタジオで室内楽アレンジのミニコンサートをやる「タイニー・デスク・コンサート」というコーナーがあり、YouTubeで人気を博しています。ここでも数年前に彼らが登場し、素敵な演奏を見せてくれています。

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そういえば、ブリトニー・スピアーズの「Baby One More Time」を、1999年というまさに彼女の絶頂期にカバーしてもいます。これは、「反メジャー」という意味での「オルタナティヴな」ロック・バンドとしてのアイデンティティがあってこその可笑しさで、これにもノベルティを感じます。こうしたサンプリング的な再演によってノベルティ感を出すという発想があるあたりが、まさしくアダムのプロデューサーとしての力量を感じます。

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ジャージー・プライドとバンド名の由来

ちなみに「ファウンテインズ・オブ・ウェイン」というバンド名は、アダムの出身地近くのウェインという街に実在したお店の名前です。庭に建てる飾り付けなんかを売っているデコレーションの店で、幼少期に母がアダムを乗せて車で通る度に「バンドの名前に良いなあ」と呟いていたとか[なお、日本語のウィキペディアの記述では出典なく「アダムの近所のウェイン家の庭説」が記されていて、これは誤りではないかと思います。]。残念ながら2009年に閉店したみたいなのですが、「90年代にレコ屋に通勤してる時毎日見たなあ、『ジャージーDNA』の一部だわ」などと回想してるこんなツイートを見つけました。

ニュージャージー州の人たちの誇りになっているようですね。無くなってしまう前に一度訪れてみたかったものです。

筆者はファウンテインズ・オブ・ウェインFacebookグループに参加していて、アダムの死後特に活発になったファンの投稿を読んでいるのですが、日本ではファウンテインズの情報が少ないので、日本語と英語の両方で書き込んだところ、なんとアダムの同窓生が話しかけてきたことがありました(彼女の出身情報にもモントクレア、同じ高校が記載されてました)。ツアーの時、何度も日本に一緒に遊びに行こうって誘われたけど結局実現しなかったとか。日本でもこんなに人気で嬉しいわ!って。

さらに4月22日には、ニュージャージー州の団体が、コロナ禍のファンドレイジングイベントFund’s JERSEY 4 JERSEYを開きます。そこで、ファウンテインズの三人が再結成するとのこと(!)。アダムの死後初めてバンドとして公の場に登場、これまでバンドはほぼ活動休止状態だったのでこれは待望です。アダムに代わりベースにSharon Van Ettenが参加。同州出身のブルース・スプリングスティーンのラジオ番組でも放送されるようです。日本時間では23日の早朝です(録画動画など見つけたら追記します→早速ファンの録画を見つけましたさらに音質・画質が高いものを別のファンが投稿してくれました。)。

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[追記:6/16]

Fountains of Wayneのアダム・シュレシンジャーのトリビュートアルバム”Saving For A Custom Van”がリリースされました。売上はコロナ対策基金に寄付されるということです。寄付は$10から。

30曲超の大作で、Netflixドラマ『クレイジー・エックスガール・フレンド』の主演レイチェル・ブルームがStacy’s Momをカバーしてたりしてて楽しいです。個人的には、The Sea and Cakeで演奏するArcher PrewittがやっているローファイサウンドなバンドCocktailsによる”Sink to The Bottom”がヒットでした。

なお、アルバム名の”Saving For A Custom Van”は、Fountains of Wayneのセカンドアルバム『Utopia Parkway』の表題曲の歌い出しのフレーズから取られています。

 

B.その他のバンドプロジェクト 

ここまでファウンテインズ・オブ・ウェインを中心にアダムのバンド活動を説明してきましたが、この項目の最後に、その他のプロジェクトにも触れておきたいと思います。これらはサイドプロジェクト的で、どちらかというと次章で説明するプロデューサーとしての仕事に近いように思います。

  • ティンテット・ウィンドウズ(Tinted Windows):2009〜
  • フィーバー・ハイ(Fever High):2015〜
  • アイヴィー(Ivy):1994〜

ティンティット・ウィンドウズは、チープトリックっぽい曲をチープトリックのドラマーであるバン・カルロスをメンバーにして一緒にやる、というバンドです(笑)。まさにサンプリング的ノヴェルティの手つき。その他のメンバーにはスマッシング・パンプキンズのジェームズ・イハ、あのハンソンの真ん中兄ピアノのテイラー・ハンソンと名だたる面々が、ネタ的に集まったいわゆるスーパーグループです。 

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フィーバー・ハイは、宅録2人組デュオのアンナ・ノーディーンとレニ・レーンがチーピーな80s的シンセダンスポップで歌う、ブルックリンベースのレトロおしゃれ感のあるバンド。アダムは一時期バンドに参加、楽曲提供とアレンジを担当しました。このPVは2015年にブルックリン周辺の街並みで撮られているのですが、ファッションだけでなく、画面構成や早回しや色味の加工など、徹底して80sMTVのパロディです。

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このなかでアダムが最もアクティヴなメンバーとして活動していたのは、アイヴィーでしょう。事項でも扱う映画『メリーに首ったけ』に参加した「This is the Day」などのヒットソングも多く、アメリカのコーヒーショップやラジオでよく流れています。ウィスパーボイスのフランス人女性ボーカルのドミニク・デュラン、こちらもあとで紹介しますが、映画『あなたにすべてを』の音楽を手掛けたアンディ・チェイスとの3人組ユニットです。初期作セカンドアルバム『アパートメント・ライフ』は、いかにもマンハッタン近郊のアパート生活を描き、てらいなく都会的で透明な音像です。筆者が初めてニューヨークに遊びに行ったとき、本作は旅行用CDケースに選びぬいて詰め込む一枚を飾り、機内でCDプレーヤーで繰り返し聴いたのを覚えています。

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アダムがこれらのバンドに自ら所属したことは、彼のプロデューサーとしての特色をとてもよく反映しています。事項で挙げるように、他にも数多くのバンドをプロデュースするなかでも、これらのバンドはそれぞれ「オールディーズ・パワーポップ」「80sシンセポップ」「フレンチポップ」と一口にテーマを見出すことができ、ここにもまた一種音楽ジャンルをパロディ化した演劇的な要素が感じられるのです。

 

②音楽プロデューサーとしての顔

2003年の「ステーシーのママ」のスマッシュヒットによってファウンテインズ・オブ・ウェインは、インディーロック界のみならず、文字通り一世を風靡することになったわけですが、レーベルとの契約のゴタゴタやツアーのストレスなどからクリスの健康状態が次第に悪くなり(日本公演でのキャンセルもありました)、解散説も流れる中で、何とかアルバムを完成させてきました。残念ながらファウンテインズ・オブ・ウェインとしては2011年の『Sky Full of Holes』が最後の作品となりました(本作がSpotifyで登録のみで公開されないのにも事情がありそうです)。そのような中で、アダムの活動の中心はプロデューサー業となっていきます。

本国アメリカに比べると、日本でのプロデューサーとしての知名度は「知る人ぞ知る」かもしれません。しかし、彼の楽曲・企画が使われている映画やテレビなどの作品は日本でも数多く知られています。例えば、キャメロン・ディアス主演の『メリーに首ったけThere's Something About Mary 1998)』や、トム・ハンクス主演・初監督の『すべてをあなたにThat Thing You Do! 1996)』などがあります。セサミストリートの楽曲も手掛けていたり、エミー賞を受賞した人気ドラマシリーズ『Crazy Ex Girlfriend』はNetflixで配信されてよく知られています。

 

A. 音楽ブロデュース、楽曲提供

彼がプロデュースに携わった作品を楽曲単位までで見ると非常に多く挙げきれないのですが、Tahiti 80、They Might Be Giants、Verve Pipeなどが出色なものでしょうか。

面白いのは、1960年代に活躍したビートルズ的なアイドルバンドのザ・モンキーズThe Monkees)のデビュー50周年記念アルバムでの仕事です。2016年のこの『Good TImes!』には、オアシスのノエル・ギャラガーThe Jamポール・ウェラーWeezerリヴァース・クオモや、ハリー・ニルソンなど豪華な面々と共に楽曲を提供しています。このアルバムは、本家のご本人をいわば「素材」にして、時代のセンスでリバイバルをしているという構図になります(クレージーキャッツのパロディのような音楽を作ってきた大滝詠一が『植木等的音楽』をプロデュースしたのに似ています)。本作には、他のファウンテインズの面々も演奏で参加しているので、ファンの方はぜひご一聴を。

 

先に挙げたアダム自身が参加したバンドほどには総合プロデュース的な作品ではないものの、個人的に特にオススメしたいのが以下のミュージシャンです。彼らの楽曲のうちアダムがプロデュースしていないものと聴き比べてみても、アダムの音作りはやはり好みです。

デヴィッド・ミード
ダン・ブリック
マイク・ヴァイオラ

デヴィッド・ミード(David Mead)は、ナッシュビルで活躍する弾き語りの歌歌い。エモく甘い歌声とアコースティックギター1本で超絶聴かせます。セカンドアルバム『Mine and Yours』(2001)、セブンスの『Dudes』(2010*5)がアダムのプロデュースです。ファウンテインズの『Welcome Interstate Managers』(2003)の最後のナンバー「Yours and Mine」は、ミードとの仕事からインスパイアされたのだろうと想像します。

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ダン・ブリック(Dan Bryk)は、カナダはオンタリオ育ち、トロントを本拠地にする歌歌い。こちらはピアノでの弾き語りです。音大に通った彼は、声を裏返しながら美メロ・美声で泣き虫ポップを聴かせてくれます。

例えば「BBW(Chunky Girl)」は、太っちょキュートな彼が太っちょ乙女への純愛を歌う、とかキュンキュンな名曲(「彼女は”ほぼ”完璧」とかいうのも+1キュン。)。ジェームズ・イハ設立のScratchie Recordsからのリリースです(ファウンテインズもこのレーベルから何枚か出しています)。ダンは、元ペイヴメントのスティーヴン・マルクマスの日本ツアーの前座をやっていましたが、両者には日常を小説的に描くローファイ・ポップという共通点があり、とてもよくわかるマッチングです。

そんな彼の最高傑作『Lovers Leap』は、こちらで全曲全編視聴できます。日本版CDには3曲ボーナストラックあり:

downloads.bryk.com

 

マイク・ヴァイオラ(Mike Viola)は、アダムとも付き合いの長い、グラミー賞候補の名プロデューサーです。長くなるのでそちらのキャリアは本稿では割愛しますが、バンドではソロ名義のほか、Candy Butchers名義でも作品を多く残す。ダミ声にこぶしを利かせて、ちょいダサ感が素敵な90年代的パワーポップです。『Falling into Place』が佳作。最近ではオールドスクールなファンクグループVulfpeckの「For Survival (feat. Mike Viola)」で歌っていて、こちらも最高!

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ちなみに、本作には"Diner ver"なる、ダイナーが開店準備してる中ちょっとウザがられながら一人で歌ってるバージョンもあります(笑)。

 

B. 映画での活躍

アダムのプロデューサーとしての手腕がミュージシャンのプロデュース以上に発揮されるのは、映画やテレビ、演劇だったりします。やはり、キャラクターやストーリーやテーマを駆使して一つの世界観を作るのがアダムの得意技だからなのだと思います。

 

映画:『すべてをあなたに(That Thing You Do!)』(1996年、監督トム・ハンクス

本作は、『Big』(1988)『フィラデルフィア』(1993)そして何より『フォレスト・ガンプ』(1994)で超一流の仲間入りをした俳優トム・ハンクスの初監督作です。日本でも人気を博した青春バンド映画です。

前章ではファウンテインズの楽曲を分析して、サンプリング的なリバイバルノベルティ感について説明しました。同様の要素が最も現れている良作がこの映画だと思います。

1960年代。ビートルズがまだまだ不良と見られていた時代の話。やはり東部アメリカのペンシルヴァニア州の典型的な郊外の街が舞台です。五人の若者が、ガレージでのセッションに始まり、プロムでのライブ、田舎町のライブハウス、ローカルラジオ局出演、レーベルからのスカウト、ツアーへの参加、ハリウッドの音楽産業への参加…と上り詰めていく青春ものです。メンバーのキャラクターが、音楽ナード、ナンパ野郎、真面目な愛国主義者(軍に入ってバンドを辞める)、アーティスト気質…と面白く対比され、時代の雰囲気をステレオタイプ的にコミカルに描きます。90年代から回顧した憧れの「60年代(シックスティーズ)」で、まさにサンプリング的リバイバル感を醸しだしています。

青春時代バンドキッズだった人たちにとってはどのシーンも堪らないのですが、やはり次の高校の体育館パーティでの演奏シーンが最高です。新加入のジャズオタクドラマーが、トチって(狙って?)リズムを早くすると、あ、ヤバい、でもなんとかしなくちゃ…と舞台上のメンバーには焦りの顔。そこから意外な方向に進み、フロアのみんなもノリノリで踊り始める。観客の歓声。結果的には大成功、本人たちも戸惑いつつ興奮。これは、一度でもステージに立ったことがある人の心に刺さります。

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なんとこのシーンが撮られたのは、『バックトゥザフューチャー』で主人公のマーティが両親が恋に落ちるプロムで演奏したあそこと同じ会場だそうです。実際にはハリウッドのとある教会だそうで、『天使にラブソングを』でも撮影に使われたお馴染みの撮影スポットなんだそうです。タイムマシンで1950年代に戻ったマーティが流れで演奏をうながされ、即興で思いついた”オールディーズ”は、チャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」。”革新的”なサウンドに会場は大盛り上がり。実は一緒に演奏しているバンドマンの従兄弟がチャックだったという設定で、マーティの演奏を電話聴かされたとき、この曲を思いついていたというジョークが効いています。

(ところが、これには監督のロバート・ゼメキスが、白人による黒人文化の「盗用」を肯定的に描く意図がある、という但し書きがついてしまいます*6。とはいえ、バンド映画史に残る、歴史ネタの二大名シーンでであることは間違い無いでしょう。)

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このタイトル曲の作曲や演奏はもちろんアダムなのですが、実はボーカルは吹き替えで、先ほどのマイク・ヴァイオラが歌っています。この動画は、トライベッカ・フィルムフェスティバルのゲストでこの曲を歌う、アダムとマイクです。イベントでのセッティングで素人が撮影している音源なので、こちらの方がなんだか素人バンドくさいですが(笑)。

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先日18日には、映画内バンドのオニーダーズ(One-dars The BeatlesやThe Monkeesなど当時のバンドが綴りを工夫した*7ところ、誤ってこう読まれてしまうというネタがある)ことワンダーズ(The Wonders)のメンバーが勢揃いで、YouTubeで同窓会を開きました。映画を流しながらコメンタリーをつけて、裏話を聴かせてアダムの追悼をした、コロナ基金のファンドレイジングイベントでした。この時の寄付や、レア音盤の売り上げは、全額「アダム・シュレジンジャー」の名義で寄付されるそうです。

キャストには、リヴ・テイラー(エアロスミスのボーカルの娘さんですね)、シャーリーズ・セロンなどがいて、当初「サプライズゲストも登場!」とのことだったので、COVID-19陽性診断後めでたく公の場に姿を見せていたトム・ハンクスが現れるか、とも思っていましたが、息子さんのコリン・ハンクス(実は映画にもちょい役で出てる)が登場しました。メンバーととても仲が良さそうで楽しかったです(ビールでも飲みながら参加したかったのですが、日本は朝イチだったのでコーヒーで参加しました)。

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ワンダーズ同窓会コメンタリーイベント

イベント動画(フル)

 

映画:『メリーに首ったけ(There's Something About Mary)』(1998年、ファレリー兄弟

さて、『すべてをあなたに』はアダムお得意のサンプリング的リバイバル感が満載のゴキゲンな作品でしたが、こちらも音楽映画の名作です。アダムは楽曲提供で参加しています。監督は『グリーンブック』のファレリー兄弟。本作はサントラがコンピレーションアルバムのようで、インディーロックの宝玉ジョナサン・リッチマンを筆頭に、レモンヘッズ、ダンディ・ウォーホルなど、そしてアイヴィーと粒揃いの選曲です。映画にも音楽がフィーチャーされ、ジョナサンがカメラ目線の語り手としても現れるという作りになっています。

 

C. テレビと演劇での活躍

映画のキャリアだけでなく、テレビや舞台の世界でもアダムは活躍しています。このことで、いっそう彼のインディーかつノスタルジックなセンスが大衆芸能へと浸透したと思います。

 

テレビ:スティーヴン・コルベア(Steven Colbert)のクリスマス(2008年)

このことがよく現れているのは、例えば、深夜トーク番組(late night talk show)司会者のスティーヴン・コルベアのクリスマス番組のプロデュースです。late night talk showとは、アメリカのテレビにおける伝統的な様式で、ホストのコメディアンの名を冠して毎晩放映される、音楽とトークで笑いをとるバラエティ番組です。多くは毎日夕方頃に録画して、その日に起こったニュースが時事ネタとしていじられます。(映画『ジョーカー』やその元ネタ『キングオブコメディ』で描かれたあれです。)

この司会者になるのは、ものすごく名誉なことで、テレビ有名人の代表格になります。このクリスマススペシャル番組が俳優本人の名前で作られるというのも伝統があって、最近では2015年に『ビル・マーレイ・クリスマス』がありました。

クリスマスソングを書いているのはもちろんアダムです。さらにエルヴィス・コステロやウィリー・ニルソンを参加させたあたりも流石の人選です。ノスタルジックかつ野暮くないリバイバルを成功させています。ここでの代表タイトル曲は「Another Christmas Song」ですが、"another"というワードチョイスにオルタナ感が香っています。

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テレビ:セサミストリートSesame Street)

誰もが知っているパペット劇のセサミストリートでは、ミュージカルを書き下ろしています。

アダムは2009年とか比較的近年参加しており、ここでもコミカルでノヴェルティな曲をたくさん作っています。例えば「それにはアプリがあるよ(There’s an App for That)」は、自転車パンクしたら、それ用のアプリがiPogo(笑)にあるよ、猫の毛を櫛でとくにもアプリがあるよ、バターを切るにもアプリがあるよ…というだけの歌ですが、デジタルネイティヴの子供たちがなにをするにもまずアプリ!と思ってしまう(?)メンタリティに共感を与えながら、そういうデジタルが行きすぎた状況をパロディにする楽しい曲です。

多くの楽曲のなかでも、「かなあ?(I Wonder)」が名曲です。誰しも子供の頃、「なぜ、なんで」と何にでも疑問を持っていたことがあるとおもいます。この気持ちは、理性を超えたものなのだ、それ自体がうつくしいのだという歌です。

www.youtube.com

その他の曲はこちら:

RIP Sesame Street Composer Adam Schlesinger | Muppet Fans Who Grew Up - Tough Pigs Muppet Fans Who Grew Up – Tough Pigs

 

 

演劇:『アン・アクト・オブ・ゴッド(An Act of God)』(2015〜2019年)

舞台では、オフ・ブロードウェイ演劇にも楽曲を提供しています。コルベアとの仕事でもタッグを組んだデイビッド・ジェイバーバウム(David Javerbaum)との仕事です。これがまた最高のパロディで、脚色の元ネタはなんと旧約聖書です。ユダヤ系の彼らしい仕事です。正確にいえば、聖書の節を引用しながら投稿を続ける、神様によるツイッターアカウントが原作となっています。

twitter.com

時々天使も登場するのですが、ほぼ神様による独白の一人芝居です。この世の創造主のことをはちゃめちゃで自分勝手な下衆いやつとして描き、徹底的に茶化しています。題の「An Act of God」は、「神の仕業/芝居」とでも訳せるでしょうか。2015年の初演時には、大人気テレビドラマの『ビッグ・バン・セオリー』の主役ジム・パーソンズが神様を演じたこともありプラチナチケットになりました。筆者は運よく抽選に当たり鑑賞することができたのですが、時差ボケの目を覚ますほどの抱腹絶倒な出来でした。コロナ前にはすでに休演していたようですが、再演があったらぜひ観てほしい作品です(宗教ネタに疎い人でも、聖書のことを軽く予習しておけば大体楽しめると思います)。

www.playbill.com

なお、神様@TheTweetOfGodのアカウントは今でも時々活動しています。今年4月1日のツイートが「遅かれ早かれ、死ぬ確率は100%(Sooner or later the death rate is 100%)」なのですが、これはアダムに贈った最高の追悼の言葉ではないでしょうか。

 

[追記:2021/01/18]

フィル・スペクターが亡くなったそうです。追悼として、本稿では取り上げられなかった大人気ミュージカルドラマ「クレイジー・エックス・ガールフレンド」のなかでスペクターサウンドをパロったこの曲を挙げておきたいと思います。

Santa Ana Winds - Crazy Ex-Girlfriend

https://youtu.be/Z4qvpHZzZGI

 

ノスタル・インディーなセンスをメジャーへ

映画から始まりテレビから演劇にまで至るアダムの仕事によって、ロック音楽のノスタル・インディーなセンスがアメリカのメジャーシーンへと届けられたように思います。アメリカの大手キー局のテレビやラジオでは、視聴していると突然オヤッと思うマイナーな音楽がSEでかかることがあります。これは、メジャーの現場にも、インディペンデントな世界で生まれる「尖った」表現を評価する回路があるということです。

いっぽう日本のことを考えると、1980年代や90年代の半ばくらいまでは、そういうことも一般的だったように思えるのですが、現在はそういうことが特に少なくなっているように感じます。経済的な逼迫が大手に「会議」で文化を作らせているとか、インターネットで世界が断絶したとか、色々な理由があると思いますが、いくつものカルチャーが個別に存在しているように見えます。アダムの作品群はアメリカで文字通りメジャーで大人気なわけですが、アダム・シュレシンジャーの残した業績とは、こうしたウェルメイドなインディーの面白さを大衆に伝道した点にもあると思います。

 

長い間、「フィールドワーク」をしてきたようだ

長々と振り返ってきました。ところで筆者は文化人類学アメリカ研究に携わる研究者なのですが、今回の悲劇を通じて、彼と周辺の活動のことを自分の経験に引きつけながら考えました。岡山のタワーレコードの試聴機で彼の音楽に出会った高校生のときから、なんだか長い間「アメリカの郊外」で「フィールドワーク」をしていたようにも思えてきました。大学院生になって、アメリカ東部の郊外で実際におこなったフィールドワークでは、こんなことがありました。民族誌的に綴った回想を以下に引用して、この稿をくくりたいと思います。

 

アダムがインタビューで、「小さい頃キンクスを聴きながら行ったこともない英国に住んだらこんなかなあと思ってた」と答えているのだけど、まさしく僕はファウンテインズを聴いて「行ったこともない米国の郊外に住んだらこんなかなあ」と思っていたんだよね。

 

それから十年ほど経って、アメリカの郊外でフィールドワークをするようになった。何マイルも何マイルも何もないケンタッキー州オハイオ州のインターステートを走りながら『Welcome Interstate Managers』を聴いたよ。

 

ケンタッキーの森の中に住んでる友人ができた。60年近くこの土地に住む生粋のローカル。しばらく家に泊めてもらい、居間で音楽を聴きながら仕事をしていたら、ある時ふとこの曲がかかって、友人が叫ぶ。「ケンタッキーバーボン!」

 

「Hung Up On You」この曲はなんちゃってカントリーソングなんだよ、おもろいでしょって、ファウンテインズのアイロニーが好きなんだって話をした。超保守的な人々が多いこの土地に住むリベラルなその友人は、カントリーのことを、ラジオでまあ流れるけど、古臭くて聴かんなあ。でもこのバンドはおもろいわ、って。

 

「この曲は、数キロしか離れていない家に住んでるのに、恋人に電話する勇気がなくて、アフリカにいるみたいだなあって歌なんだよ」って話しながら、一緒に聴いた。多分これはニュージャージーの話だけど、友人は僕のパソコンからケンタッキーの歌が流れて嬉しいというので、そういうことにしておいた。

 

www.youtube.com

 

R.I.P.なんて、なくても良かったけど。 

この原稿を一度書き終えたのは4月2日頃で、それから書き殴っては、やめたりしていた。訃報を知って原稿を書き始めてから既に20日ほどが経ちました(4月22日時点)。その間、悲しみだけでなく、ある種の慎重さが頭の片隅で働いて、しばらくアダム・シュレシンジャーの残してくれた音楽をまともに聴けないでいました。コロナウイルスを始め、日々目まぐるしく情報が流れていくなかで、良い「追悼」とは何かと考えていました。情報の洪水の中で彼の音楽にまみれるのは何か違うのではないか。数日数週のあいだ作品を消費し、すぐにそれを忘れていく。それは単なる「忘却」であって、死を悼むという意味での「追悼」とはむしろ対極にあるものではないか。このような警戒をしていたのです。

 

いつ聴き始めようかと迷いながら、そうだと思いつきました。「書いて、噛み締め、聴く」ーーーこのくらいのスローな時間の流れこそが、追悼にふさわしいのではないかと思い、この原稿をゆっくりと仕上げようと思いました。ギターキッズ上がりのアメリカ文化の研究者に、ポップな音楽と彼の地への思索という、二つの時間を与えてくれたことに、心から感謝をしています。

 

本稿は極私的なものなので、蛇足を加えることを許していただきたいのですが、アダムの死後ファウンテインズが再結集するのが、偶然にも筆者が生まれた4月22日になりました。自分にとってこの記事は、「死と再生」の物語となりました。今夜はメキシカンワインで乾杯をして、ファウンテインズを聴き始めようかと思っています。

 

#FountainsOfWayne #Ivy 

#RIPAdamSchlesinger 

 

【補遺:メディア等情報まとめ】

最近の報道

[英語]

Tribute to Adam Schlesinger with Steven Gold, Jody Porter, Robert Smigel & more – Part 1 - Podcasts | Rhino

レコードレーベルRHINOポッドキャストで関係者が思い出話をしています。下に挙げたようにメンツがとんでもなく豪華です。前後半に分かれ、パート1は友達つき合いなどよりプライベートなもので、2は作品の話になるようです(2は未聴)。

[Part 1] Steven Gold (Crazy Ex-Girlfriend), Jody Porter (Fountains of Wayne), Robert Smigel (Saturday Night Live, TV Funhouse), lifelong friends Jonathan Small and Jeremy Freeman, David Bar Katz (House of Buggin’, FREAK), Steve Yegelwel (A&R/Atlantic Records) and acclaimed musician Mike Viola (That Thing You Do).

[Part 2] Rachel Bloom (Crazy Ex-Girlfriend), Andy Chase and Dominique Durand (Ivy), songwriter Sam Hollander, Micky Dolenz (The Monkees) and Anna Nordeen and Reni Lane (Fever High).

 

Adam Schlesinger, Fountains of Wayne singer, dead at 52 from Covid-19 - CNN

Adam Schlesinger, Songwriter for Rock, Film and the Stage, Dies at 52 - NewYorkTimes

米大手メディアが報じたアダムの訃報

 

RIP Sesame Street Composer Adam Schlesinger | Muppet Fans Who Grew Up - Tough Pigs Muppet Fans Who Grew Up – Tough Pigs

マペット(人形劇)ファンサイトも追悼記事を寄せています。

 

[日本語で読めるもの]

ファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーがコロナ感染で死去、その生涯を振り返る | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)

【追悼】アダム・シュレシンジャー 長年の親友が大学時代からの思い出を綴る | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)

日本語で読める商業誌の訃報記事のなかでは包括的で詳しい。2つ目の記事は、ミュージカル音楽などを共同制作した友人へのインタビューから思い出を描く貴重なもの。おすすめです。

 

ファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーが新型コロナ感染で逝去。その半生を辿る - udiscovermusic.jp

Fountains Of Wayneがアダム追悼のためチャリティー・イベントで再結成

これも非常に情報が多く、より総括的。プロデューサーとしての仕事にも多く触れています。

 

ファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャー、追悼の声が寄せられることに | NME Japan

各著名人の追悼ツイートを邦訳しています

 

ファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーがコロナ感染で死去、その生涯を振り返る | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)

 

ファウンテンズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャー、新型コロナウイルス感染により52歳で逝去 (2020/04/02) 洋楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

アダム・シュレシンジャーの死を受けて、ファウンテンズ・オブ・ウェインの楽曲が米ビルボード・チャートに復活 | Daily News | Billboard JAPAN

ファウンテンズ・オブ・ウェインのアダム、新型コロナウイルスにより死去 | BARKS

FOUNTAINS OF WAYNE(ファウンテンズ・オブ・ウェイン)のAdam Schlesinger(アダム・シュレシンジャー)が逝去。享年52歳 - TOWER RECORDS ONLINE

音楽情報誌

 

【追悼】ファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャー | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

総合カルチャーメディアで。こちらもバンド以外での業績にも触れています。

 

過去のもの

'Crazy Ex­-Girlfriend' Songs ­- Adam Schlesinger and Steven Gold ­- Variety Artisans

ウェブマガジンVariety 『クレージーエックスガールフレンド』の音楽プロデューサーのアダムとスティーヴン・ゴールドへのインタビュー

 

http://theywillrockyou.com/2007/06/fountains-of-wayne/

2007年『Traffic and Weather』の時のアダムへのインタビュー

 

School for the Dead | SoundClick

クリスが参加していたSchool for the Deadの音源。ちょっとサイケっぽいポップロック。 

*1:日本の神仏の習慣では喪中の期間には「忌」と「服」があると言われ、「服」とは故人への祈りを捧げる時期のことです。遺されたものたちは、服すことで自身の記憶を振り返りながら、死者と新しい関係を取り持つ事で、「死」を受け入れる事ができるように思います。

*2:パワーポップとは、初期にはCheap TrickやCarsなどに始まる、ギターとベースにドラムといったスリムなバンド構成、比較的シンプルなコード進行に乗せ、歪んだギターとゆるいビートを基調としたスタイル。その知名度を高めたのはWeezerで、この辺りから「男気の無さ」や弱虫、ナード(オタク)感を楽曲やバンドのテーマに据えたものも増えてくる。FOWはこのように位置づけられる。

*3:この辺りの事情はデイヴィッド・ハルバースタムの『フィフティーズ』で詳しく学べます。筑摩書房 ザ・フィフティーズ1 ─1950年代アメリカの光と影 / デイヴィッド・ハルバースタム 著, 峯村 利哉 著

*4:エノケンクレージーキャッツ、それに奇しくも先日コロナウイルスで亡くなった志村けんが在籍していたザ・ドリフターズなど

*5:クレジットは"executive producer"ということなので、総括だけかもしれません。

*6:町山智浩『最も危険なアメリカ映画』集英社、1996年

*7:英語でsensational spellingと言います。The ByrdsLed Zeppelinなどバンドに多いですね。商標に関わる固有名詞には至るところに見られ、ペンシルヴァニア発の薬局でRite Aidというのがあります。

コロナウイルスに対する各国の文化支援。メトロポリタン美術館から米国議会への請願書「Tell Congress to Save Culture」邦訳

コロナウイルスに対する各国の文化支援。
 

イギリスは、212億円。カウンシルを通じて美術館やアーティストに配分。
ドイツは、6兆円。個人の住宅費や光熱費にも1兆円以上。
アラブは、4500万円。中止になったアートフェアの代わりに作品を買い上げ。
日本は、「日本の文化芸術の灯を消してはいけません」

 

文化庁長官がこのような精神論的ポエムを発信しているのみで文化芸術関係者は失望しています。

 

(追記)2020.4.1時点での各国の支援まとめ。ここでも日本は何も施策を打ち出さず。

bijutsutecho.com

 

以下は、アメリカ合衆国でのミュージアムの復興支援を求める署名です。メトロポリタンミュージアムによるもので、宛先は議会とナンシー・ペロシ下院議長とミッチ・マコーネル上院議員。署名したので、以下に抄訳を載せておきます。ぜひシェアしていただければ。
 
米国でも行動なく文化芸術活動が支援されているわけではなく、むしろ、こうした声を届ける草の根の活動が身を結んでいるのだと思います。キャンペーン文の訳でもわかるように、損益と利益・効果などから内実を具体的に示していることは非常に説得力があると感じます。文化庁長官の言葉のように、何ら具体的な対策も示さず、わざわざ精神論のみを発表するのは何も変えません。国内でも同じような情報を揃え、アピールするのは効果的なのではないでしょうか。
 
文化政策研究、文化行政、美術館・博物館関係者のみなさま
私個人では、国内の経済的被害・経済効果に関する試算などまだ情報が集められていないのですが、もし何か役立つ情報があればぜひお知らせください。
 
ーーーー
<抄訳>
起草:メトロポリタンミュージアム
宛先:議会、ナンシー・ペロシ下院議長、ミッチ・マコーネル上院議員
 
米国政府は、労働者と企業への経済救済措置を構想中であり、その中に文化芸術機関およびそこで働く労働者への支援が十分に含まれることは極めて重要です。措置全体は2兆ドルで、議会にはうち40億ドルを、非営利のミュージアム(※美術館・博物館、郷土資料館や歴史協会や動物園なども含む)や文化機関、労働者の救済に充てるよう求めています。また、寄附金などへの税控除措置も促進のために求めています。
 
アメリカ全国のミュージアムは合計すると、閉鎖のために1日あたり3300万ドルを損失しています。アメリカ博物館連合(American Alliance of Museums、AAM)の試算では、そのうち約三割のミュージアムは政府からの支援がなくては再び開館することは困難だとされています。そのうちのほとんどは小規模で地方のミュージアムです。アメリカ中で芸術が全くない世界を想像してみてください。
 
AAMとOxford Economicsの試算で、ミュージアムは、アメリカで500億ドルの経済効果と120億ドルの税収を生み出し、72万6千人の雇用を支えています。
 
この喫緊の行動なくしては、来る数年間、我が国の芸術文化は破壊されてしまうのです。
ーーー
<原文>
As the federal government drafts an economic relief package to provide emergency relief to American workers and businesses, it is critical that arts and cultural institutions—along with their employees—are supported in this package. In a package of nearly $2 trillion, we are urging Congress to include $4 billion in relief for nonprofit museums and cultural institutions and their workers. We are also urging Congress to adopt a temporary "universal charitable deduction" that will help incentivize more charitable giving at a time when we project a steep decline. 

 

Already, COVID-19 has had a profound impact on the arts and culture sector. It is projected that museums across the nation are collectively losing at least $33 million a day because of closures. The American Alliance of Museums estimates that 30 percent of museums—mostly in small and rural communities—will not be able to re-open without swift financial support from the government. Imagine what the United States would look like without the arts.

 

Museums provide important educational, cultural, and economic value to our communities and country. American Alliance of Museums and Oxford Economics estimate that museums contribute $50 billion to the U.S. economy and $12 billion in tax revenue. Beyond that, museums support 726,000 jobs across the country, providing local employment to Americans in every state. 

 

Without urgent action, our nation’s arts and culture will be damaged for years to come.

www.change.org

コロナウイルス・ミュージアム休館情報まとめ:ニューヨーク編[2020.3.14時点]

ニューヨークの主要ミュージアムの休館情報をまとめました。
 
12日にはグッゲンハイムやニューミュージアムとか立て続けにDMが届いたのでちょっと気になって調べてみました。現14日時点でほぼ全滅で、セックスミュージアムとか商売っけのあるところだけ開いてる感じですね。ウェブ上で楽しめるミュージアム情報もおまけでつけておきます。
 
 
[ミュージアムの休館情報:ニューヨーク編]
 
 
ニューミュージアム New Museum
3.13-未定
https://www.newmuseum.org/visit
 
ホイットニー美術館 Whitney Museum of American Art
3.13 5pm-未定
https://whitney.org/covid-19-update
 
 
ミュージアムオブムービングイメージ Museum of the Moving Image
3.14-29
http://www.movingimage.us/visit/message
 
アーツ・アンド・デザインミュージアムMuseum of Arts and Design
Now-未定
https://madmuseum.org/about/covid-19-update
 
クーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン美術館 Cooper Hewitt , Smithsonian Design Museum
3.14-未定(展示)/-5.3(イベント)
https://www.cooperhewitt.org/visit/plan-your-visit/
 
 
ブルックリン美術館 Brooklyn Museum
3.13-未定
https://www.brooklynmuseum.org/visit/health
 
クイーンズ美術館 Queens Museum
3.13-20
https://queensmuseum.org/
 
ディア・ビーコン Dia:Beacon
3.13-31
http://www.diabeacon.org/
 
アメリカ自然史博物館 American Museum of Natural History
3.13-未定
https://www.amnh.org/plan-your-visit/covid-19-visitors-staff
 
 
 
長屋博物館:ニューヨーク移民博物館 Tenement Museum: Immigration Museum NY
3.14-31
https://www.tenement.org/tenement-museum-response-to-coronavirus-covid019/
 
 
ハーレム・スタジオミュージアム The Studio Museum in Harlem
3.13-未定
https://studiomuseum.org/announcement-studio-museum-close-temporarily
 
スミソニアン国立アメリカインディアン博物館 National Museum of the American Indian
3.14-未定
https://www.si.edu/newsdesk/releases/smithsonian-museums-and-national-zoo-close-march-14
 
ユダヤ博物館 The Jewish Museum
3.13-(2weeks); モバイルツアー推奨
https://thejewishmuseum.org/
 
エリス島・移民博物館・自由の女神 Ellis Island/Immigration Museum/The Statue of Liberty
開館(記述なし)
※追記 3.16-未定
 
ミュージアム・オブ・セックス Museum of Sex
開館(記述なし)
※追記 3.16-31
https://www.museumofsex.com/
 
リプリー氏のビリーブイットオアノット珍奇館 Ripley’s Believe It Or Not! (Times Square)
開館(記述なし)
※追記 3.17-27
https://ripleysnewyork.com/
 
セントラルパーク動物園 Central Park Zoo
※追記 3.16-未定
https://centralparkzoo.com/plan-your-visit
 
 
 
 
[休館情報まとめ記事]
国内開館中のミュージアムまとめ
延期になった展覧会まとめ
 
 
 
[オンラインで楽しめるおすすめミュージアム]
クーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン美術館
〜コレクションを一点ずつ紹介。説明テキストにリンクが貼られて「タグ」のように使える。「版画」ならその分類の一覧に飛べるという便利さ。ビデオコンテンツも充実。(解説
Google Arts&Culture
Googleのポータルサービス。世界中のミュージアム文化施設などを横断的に紹介。展示室のバーチャル体験だけでなく、テーマ別の分厚いコンテンツもあり。(解説
Googleストリートビューで見られるミュージアムまとめ(国内のみ)
ニコニコ美術館
〜展示室からの配信番組。学芸員の人がツアーしてくれるのでとても豪華。
 
 
 
[論文]
この論文にはオンライン上での国内外のミュージアムの試みをいろいろ紹介しました。ここから各自の興味のあるジャンルのオンラインミュージアムを探してみるのも面白いかもしれません。
小森真樹「デジタル・ミュージアム・研究 : デジタル時代のミュージアムとモノと場所」『立教アメリカンスタディーズ』40、2018年。