アラスカ州で『グレート・ギャッツビー』などが教科書から排除

先月22日のことですが、アラスカ州パルマー郡のマタヌスカ・サストナ学区の教育委員会は、『グレートギャッツビー』などを含む古典文学を、11年生(高校2年)の教科書として使用することを禁じる発表をしました。

Five Classic Books Banned from Alaska School District - National Coalition Against Censorship

 

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  • Maya Angelou "I Know Why the Caged Bird Sings" 『歌え、翔べない鳥たちよ』

アフリカ系アメリカ人公民権活動家の詩人で歌手のマヤ・アンジェロウの代表作。

  • Ralph Ellison "Invisible Man"『見えない人間』

ラルフ・エリスンによる、1930年代のニューヨークの「賢くて、論理的な、黒人らしくない」黒人少年すなわち「見えない人間」を主人公とした物語。

  • F. Scott Fitzgerald "The Great Gatsby"『グレート・ギャッツビー/偉大なるギャッツビー』

F・スコット・フィッツジェラルドによる1925年の代表作。「失われた世代」の作家が狂騒のジャズエイジを描いたアメリカ文学の金字塔。

  • Tim O’Brien "The Things They Carried" 『本当の戦争の話をしよう』

ティム・オブライアンによる兵士の体験談を元に自伝風にヴェトナム戦争を描いた作品。(村上春樹によって訳されています)

  • Joseph Heller "Catch-22" 『キャッチ=22』

ユダヤ系小説家ジョセフ・ヘラーが第二次大戦中の兵士たちを描いた「不条理」小説。

 

以上5冊の名だたる古典文学を含むことで話題となりました。戦争、公民権運動、人種・民族と貧困や格差の問題、「失われた世代」。それぞれが、アメリカの社会や歴史における問題を鋭く描いたものであることがわかると思います。これらは高校生が「知るべきではない、読むべきではない」ものなのでしょうか。カリキュラム化された授業という空間においてでも、「教育上よくないもの」なのでしょうか。

全米反検閲連盟(National Coalition Against Cencership)も正式に反対声明を出したり、ポートランドで活躍するこの学区出身のバンドPortugal. The Man反対を唱えています。

禁止の背景には宗教保守派のロビーイングや政治家がいるのですが、禁止理由を「物議を醸す(controvertial)」ためという言い方で濁しています。あくまで、ある立場からの倫理的な「良い悪い」という判断ではなく、「社会にとって害悪でしょう?」と多くの賛同が得やすい言い方にしています。また、憲法違反に当たらず法案として通過しやすい方法でもあるわけです。これは、同連盟による検閲の方法論をまとめた以下の本でも典型的なやり方であると指摘されています。

 

最後に、連盟代表Svetlana Mintchevaが書いたこの本が面白いのでおすすめしておきます。両開き(flipbook)となって言います。裏表紙から開けると『芸術の自由のマニュアル(A Manual for Art Freedom)』なんですが、表表紙からはなんと『検閲マニュアル(A Manual for Censorship)』になっていてシャレが効いています。これについてはまた取り上げてみたいと思っています。

 

ncac.org