スパイク・リー「3 Brothers」(2020):未だに奪われ続けている「物語」を作る力を取り戻すカットアップ

Spike Lee ”3 Brothers” (2020)Are Love and Hate the Same? - Human, All Too Human

 

黒人の苦境を題材に撮り続けてきたハリウッド映画監督スパイク・リーによるショートフィルム。ジョージ・フロイド事件へのアンサーとして発表されたものである。

2014年に起こり、「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命も大切だ)」運動を知らしめる引き金ともなったエリック・ガーナー圧死事件は、警官によって押さえつけられ窒息死させられたものである。今回の事件の被害者フロイド氏も、ガーナー氏と同様に、「息ができない(I can’t breathe)」の言葉を残して亡くなった。

リー監督の代表作「ドゥ・ザ・ライト・シング(Do The Right Thing)」(1989)には、登場人物レディオ・ラヒーム(Radio Raheem)が同じように警官に圧死させられる場面がある。リーはこの短い動画で、被害者二人が亡くなる実際の映像と、ラヒームのシーンの映像をカットアップしている。

ラヒームは架空の人物である。だが、実在するグラフィティアーティストのマイケル・ステュワート(Michael Stewart)が白人警官に殺された事件を元にしている。つまりこれら「三人の兄弟(3 Brothers)」の映像は、一種のノンフィクションとドキュメンタリーの映像ということになる。

ここで用いられたカットアップという手法はヒップホップなどに典型的に見られるもので、いわば「盗む」ことで作る方法である。黒人文化の発展の中で生まれた美学である。他人のものを自分のもののように振る舞うことで「主語をずらす」ことができる方法は、アンサーやパロディなどの仕方で、「奪われた」状態にある者が「奪う」ことで象徴的な抵抗を示すように使われてきた。この視点で本作を見れば、ステレオタイプ化されて解決を見ない警察機構による黒人差別に対して、「物語る」主体となる力を「抑圧された者」の側に取り戻す必要を、スパイク・リーはここで改めて提示しているように見える。

 

関連記事:https://www.dailymail.co.uk/tvshowbiz/article-8401623/Spike-Lee-discusses-powerful-short-film-Three-Brothers.html