テキサス州ダラスに「六階博物館(The Sixth Floor Museum)というものがある。ジョン・F・ケネディの暗殺に関わる資料を調査し、大統領の功績を顕彰するミュージアムだ。歴史協会が1989年に開いた。このサイトには「暗殺カレンダー」があって、とてつもなく細かく、またとても見やすい。
この建築自体が、なんと射殺犯オズワルドが潜伏していた場所である。大統領やオズワルドが殺される様子がテレビで生放送されたことや、犯人が直後死んだことでしょっちゅう生み出され続けている陰謀論が想起され、足を踏み入れると、おどろおどろしいものを見ている気分になる。
と思うのも束の間、クリーンな室内に気さくなガイドの案内で気が晴れる。当然だが、普通の歴史博物館なのだ。展示の解説は極めて詳細。ケネディの暗殺や当時の政党政治などの史実にそれほど詳しくはない私から見ても、きちんと学術的な作法に則っているように見える。ショップにも公式を始めとしたコミカルなグッズが並び、心が和む。
歴史的な暗い過去を観光資源としたり、虐殺や死体など「死」にまつわる事象を観光に利用することを、「ダークツーリズム」や「タナ(死の)ツーリズム」と呼ぶ。この大統領の死を展示する博物館は、アメリカ社会が「暗い歴史」や「死」をどのように扱うのかを考えるための格好のケーススタディとなる。
大統領は公人中の公人であるものの、例えば現代の日本では、なかなかこうした公の場所で著名人のことを検証/顕彰するという行為は想像しにくい。1960年代という近過去ならなおさらである。*1 ましてや、ミュージアムでポップに楽しむという企画が実現するとも考えにくい。
ちなみに六階博物館のサイトには、24時間のライブカメラ映像で、暗殺現場を終始映している。「狙撃手の視点で眺めてね」なんてコメントまで添えてあって、やはりなかなかすごい気分にはなる。
*1:三島由紀夫の自死を若松孝二監督が劇映画にしたことが思いつく。今年は三島と学生との討議を捉えたドキュメンタリー映画が東宝系のシネコンで上映されて驚いたが、そのくらいだろうか。 https://hlo.tohotheater.jp/net/movie/TNPI3060J01.do?sakuhin_cd=018265