広い時代設定が社会のジェンダー観をあぶり出す 「Inside/Out 映像文化とLGBTQ+」早稲田大学演劇博物館

今年初の展覧会は、早稲田大学演劇博物館で「Inside/Out 映像文化とLGBTQ+」を鑑賞。
 
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2室のみというごく小さな規模の展示にもかかわらず、かなり幅広い時間軸の設定。大づかみに主題について理解できるのが最大の魅力。こうした広い設定が自分にとって嬉しかった点は、LGBTQが描写される、すなわち社会に認知される「チャンネル」を俯瞰できたこと。これによって、「多様性」が時代に沿っていかに変化してきたのか、日本社会のジェンダー観の変遷を見ることができた。
 
このような俯瞰型・総覧型にすることと同時に、展示企画者が個別の作品を安易に「良い/悪い」表象と判断しない形式になっている。LGBTQを描写する事それ自体が目的になっている作品だけでなく、都合よく設定の「道具」としてそれらを用いる作品も並列に紹介されている。他方で、表現規制の法律などといった社会的背景についても補足がある。これらによって、より高い客観性が担保できているのではないかと思う。もちろん、テーマ設定や展示物の取捨選択に主観性が入り込むことは言うまでもない事だが。
 
個別の作品全てにキャプションがついており、(おそらくは企画者の久保豊さんによる)短評になっている。これらの優しくも鋭い表現の端々に、批判すべき点や革新的な点などが滑り込ませてある。「当たり障りないもの」からは程遠いものになっていて痛快だ。
 
こうしたバランス感によって、ああ、あれもあるのに物足りないな、という気持ちにならない。久保さんが出演されたアトロク(アフター6ジャンクション、TBSラジオ)で聴いて気になっていた木下惠介の再評価をはじめ、戦後すぐの時期の小津安二郎増村保造などに関する「読み」もなるほどと思った。その多くは、二十年程前自分の学部生時代に観た作品だったけど、いま見直してみて、リトマス紙的に自分のジェンダー観を確認したくなった。
 
これも欲しかったという点を強いていうならば、展示が戦後から始まる時代設定。社会背景が大きく異なる戦前・戦中の傾向が知りたくなった。
 
あと、「映画・テレビ」の映像表現と対象とする枠組みを限るのなら、アニメ映画やCMではどうだったのか、この点も気になった。(広告・テレビ業界から出てきた大林作品も取り上げられていたが) これらはどれも個別の展覧会が企画できるほど大きなテーマだし、続編に期待。作品が出展もされていた竹宮惠子先生がいらっしゃる、京都国際マンガミュージアムあたりいかがでしょうか? 
 
思えばこの会場は、演劇博物館だ。LGBTQ+展の演劇バージョンをやるのも意義深い。
 
非常事態宣言も決まり見逃しそうだったので年始に滑り込み。1/15まで。研究機関としての強さを生かしたさすがの学術的な手つきで、カタログも○。逃した方もこちらでフォローできる内容になっています。
 
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