『民族藝術学会誌 arts/』に論文「遺体が芸術になるとき――医学博物館が拡張する「芸術」と医学教育の倫理」が掲載されました。

新しい研究論文が出ました。人体をミュージアムのコレクションとして扱うことの倫理について考察しています。

 

「遺体が芸術になるとき――医学博物館が拡張する「芸術」と医学教育の倫理」

『民族藝術学会誌 arts/』(37巻、2021年)

DLリンク:

https://researchmap.jp/masakikomori/published_papers/32090988

 

抄録

本稿は、全米初の医学博物館ムター・ミュージアムが実施してきた、アルスメディカ (=医学に関わる芸術)事業に関する歴史的考察である。同館の目的が「研究」から「教 育」へと変化する過程では、「医学芸術」が娯楽的な魅力を演出する教育上の有効な手段 になる一方で、遺体の展示公開や商用利用という倫理的課題が生じた。考察を通じて、 ミュージアムとは、モノの芸術的価値を担保して芸術概念を拡張し、また社会の倫理規 範を制御する装置であると結論づけた。

This paper examines the history of the ars medica collections and exhibitions at Mütter Museum in Philadelphia, Pennsylvania, the first medical museum in the United States. As the museum transformed from a research institute to an educational facility, medical art projects have been not only an effective way to make the museum’s medical collections more accessible but also obstacles that have led to criticism of the museum’s treatment of collections, such as publicly displaying human remains as artworks and utilizing specimens as commercial resources. The paper clarifies that museums could broaden the concept of art by building and exhibiting their collections and also make a significant role in establishing social norms and ethics in society.

 

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民族藝術学会による刊行誌で「民族芸術」と名前がついていますが、「非主流の芸術」全てを扱うものだとイメージしています。つまり、正統(キャノン)を中心に描かれてきた「芸術」概念を批判的に捉えつつ芸術史や芸術研究はいかに可能なのかということについて問題意識を持っている人たちが集まっている学会なのだと理解しています。タイトル通り、小文字の複数形の「arts」を目指しています。

一昨年リニューアルしたのもそのような方針を明確にしたようで、今後も展開が楽しみです。一新したデザインもその姿勢を表しています。色が毎号微妙に変わっていくようですが、2巻目の本誌は淡い桃色。誌面もクールでとても気に入っています。

『民族藝術学会誌 arts/ 』 – 民族藝術学会

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敢えての校正紙面のようなデザイン

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写真も綺麗にレイアウトしてくださいました