SABB DAY 67

20240714
Sabb Day  67
London(UK) 64
Brixton, London(UK) 37
Fulham, London(UK) 27
Birmingham(UK) 03
Manchester(UK) 03
Bristol(UK) 02
Philadelphia(US) 

 

 東京からロンドンへ引っ越したのが五月。ブリクストンの宿は二つ目だ。半年ほど単身で住むので色々な地区を見てみようと移り住んでいる。

 ロンドンは物価が異様に高いことで有名だ。東京なら23区にあたる中央部では、単身ではフラットをシェアをする以外に選択肢がないほど住宅市場が逼迫している。部屋探しをしているが、ポータルサイトの募集にリクエストに送る度に自動化されたメッセージで断られ続け辟易している。

 今の宿の期限まで一週間を切ったが、まだ家が見つからない。一軒件目と二軒件目のこの家は、契約の手間がなく見つけやすいAirbnbで借りた。ひと一月以上のしか契約しか受付けできない上に非常に割高なこの物件は、ハウスシェアビジネスが運営しているらしい。見た目にはファンシーな家具はおもちゃのようで、裏返すとすべてIKEAとロゴがある。人工芝と造花のグリーンがつくりもの感を高める。フラットメイトにも、良い家を探すために滞在している“つなぎ”の人が多い。ロンドンで良い住まいを見つけるのはめちゃめちゃむずいと、皆が口を揃えて言う。

 引っ越しておよそひと月が過ぎた。買い物にも交通にも慣れ、夜は避けたいスケッチー(怪しげ)な通りはここだとか、この街で住まうための経験知もついた。

 

 

 いつも通り、ブリクストン駅前のウィンドラッシュ広場にはレゲエが爆音で流れている。路上で暮らしているいつも見かける人たちは、とくに踊っているとかでなく、ただのんびりしたりおしゃべりしたりビールを飲んだりしている。何かの薬物なのか心の病か、明らかに様子がおかしい人もときどき見かける。

 大きなスタンドスピーカーを二つ立てにしてターンテーブルをつないだ簡易サウンドシステムのようなブースは、ハリケーンペリルがジャマイカにもたらした被害のための寄付を募るものだった。
 隣では食料配布が始まり人々が列をなす。ソルトフィッシュ(干し魚)か何かの煮込みでバスマティライスの良い香りがしてくる。今日はユーロリーグのファイナルで、イングランドのユニフォームを着た人々が大挙してパブやクラブの方向へ向かっている。

 

 

 ウィンドラッシュ広場には、イギリスを代表するブラック系の歴史博物館「ブラック・カルチュラル・アーカイヴス」がある。音楽と美術の二つの展示は、いずれもウィンドラッシュ・スキャンダルについて扱っていた。この事件は、1940年代から1973年まで、英国政府が表向きには移民の受け入れを推奨しながら、実際には1950年から1981年に制定されたすべての移民および市民権法が、少なくとも一部分は英国の非白人人口を減らすために作られていたことが発覚したものである。多くの無実の人々がこの人種差別的な移民政策の犠牲となり、家族から引き離されて強制拘留され、雇用や住宅を失い、生活が困難になった。このミュージアムは被害の歴史を記憶しつつ、文化と芸術によってブリクストンを再生する拠り所になっている。

 

 

 深夜になって住宅街の方向へ家路につくと、フットボールイングランドが敗戦したあと爆音で音楽をかけて叫び憂さ晴らしするハウス・パーティの音があちこちで聴こえていた。近所でパーティの翌日は寝不足で迷惑、くらいに思っていたサウンドが、今日は違って聴こえてくる。想像力を広げるのはカルチャーの力である。引っ越しを翌週に控えても家が見つからない中で考えていた。