SABB DAY 09

20240516
SABB DAY 09
London(UK) 06
Birmingham(UK) 03
Manchester(UK) 03
 
ベンジャミン・フランクリン・ハウス|Benjamin Franklin House
 米国建国の父ベンジャミン・フランクリンが住んでいた唯一現存する家。外から眺める。1790年に84歳で亡くなるまでのうち、二十年間をロンドンで過ごしたそうな。ピカデリーサーカスからもすぐの場所の小径で、なんとなくフィラデルフィアの旧市街地Old Cityを思い出すのは連想か。連想だ。路地裏には、地下道へ続く奥まった場所にパブがあって気持ちいい。
 夫婦で来てるおじさんが熱心に写真を撮っていて、おばちゃんが横目に見ていた。フィラデルフィアに住んでたんだよって話すとビックリしてたが、彼らはアラスカから来たと聞いて僕の方も驚いた。
 ロンドンでもオーロラ見えたって聞いたけど? ああ、アラスカだとよくあるー。歩いてるとすぐに観光地の大きな広場が見えてくる。「ああ、ロンドン、慌ただしくて疲れるよね…」三人で目を合わせて心から同意の顔。苦笑。
 
事実は「映画」より奇なり
 最近は連載が二つ同時期にはじまり、ロンドンへの引越し、マンチェスターバーミンガム旅行、さらには調査機関のウェルカム・コレクションでの顔合わせも重なって気持ち的にかなり忙しかったんだけど、ようやく大体終わった。ひと段落したので、ミュージアムではなく映画なんかをそろそろ観たくなってきた。日本にいた頃は一日一本ペースで観ていたので、映像コンテンツという「物語」からの情報が少なくなることが思考にどういう影響を与えるのか、などと思う。
 イギリスで初めて映画館に行った。アクセスがよかったので、ピカデリーサーカスのレスタースクエアという観光地も観光地、ど真ん中の映画館にする。ピカデリー=レスターはブロードウェイ=タイムズスクエアの関係に対応していて、ツーリストトラップの賑わいもまさしく。トラファルガー広場からナショナルギャラリー、ポートレートギャラリーを横目に拝みながら劇場街へ。
 なんか日本だと演劇文化と映画文化は別のもののように感じられるけど、ここで見てると両者のつながりを強く感じる。劇場地区にたくさん映画館がある。観劇をして前後に食事したり飲む感じや、お出かけのためのイベントが「観劇」だという感覚で、周囲や館内施設が準備されてる感じ。チープで量産型なのが映画館関連の施設だというのも、「映画」初期の大衆娯楽としての歴史とのつながりなど思う。演劇やミュージカルやダンスの劇場も映画館も、英語ではいずれも「シアター」である。
 大手のオデオンのサイトやアプリで、「フィルム」=作品のこと、「シネマ」=映画館のこと、とちゃんと使いわけらていることに、改めてなるほどと。アメリカではどうだったか思い出せず。
 
 シアターディストリクト=劇場街のなかにある大きなムービーシアター=映画館。1937年に開館してやはり劇場自体に歴史がある、しかし普通にシネコンっぽいな、ふむふむなるほどイギリスの映画館はこういうシステムか、などと思ってロビーをぶらついていると、とんでもなく恐ろしい叫び声が聴こえてくる。「ビクティム(被害者)はどこだ!」とか聴こえる。
 ホームレスらしきおじさんが逮捕される現場に出くわす。警備員が押さえつけ、巨漢のおじさんは大声で叫びながら暴れている。一瞬そこにいるみんな硬直したので緊張感が走る。また一人、また一人と警備員が現れる。なにか恐ろしいことかもしれないので、まず何が起こっているのか遠巻きに確認していたところ、めっちゃ戸惑っているのは僕のようにお客さんで、店員はなんか無関心だったり呆れ顔の人もいる。ものすごい酷い状況でもないなとひとまず把握。ん、取っ組み合いの方向がスクリーンへの入口だ。さらには人が入らないようにロープで塞がれてしまった。
 もう予定の時刻は過ぎているなあ、などと思いながら側にいた係員に何があったのか尋ねると、どうやら客ではないおじさんが劇場のトイレを借りようとしたのをこの彼が止めたらしく、さらには何か唾を吐かれたとかで、揉め事になったようだ。公衆トイレじゃないから、お客さん用だから、って止めただけなのに、と言い訳するようになんども繰り返していた。唾かけられた彼も、ホームレスのおじさんも、この状況も、なんとも言えぬ可哀想な気分になった。警察がやってきて、逮捕されるのに抵抗して、「なんの罪でなんだ!被害者はいるのか!」と口論になった。被害者はいるよと説かれて、「今、お前が暴行してるじゃないか」と言い返していた。
 ロンドンへ越してきて先日来、ミュージアムや、人々の慣習、行政の対応や制度などに関して話を聴いたり観察したりして、「公共性のありかた」について考えてきた。いくつか書いた原稿では、ある種の「美談」として見習いたいところを切り取ろうとしたりもしたが、美談じゃない公共の話を見た気がしていた。最悪のケースも当然想定し、まさか銃撃や刺殺事件などではないよな、とかちょっと(かなり)背筋を延ばしながら状況把握に努めたがそうではなくてまだよかったが、トイレの話というのは象徴的だ。プライベートでセンシティヴでエッセンシャルな(衣食住+排泄、という必要不可欠なものという意味で)、トイレほど公共的なトピックはないと思うけど、路上に住んでいる人は公共トイレすら使えない状況にあったりするのだろうか。制度的な不備、社会の包摂がうまくいっていないようなことがあるのだろうか。
 イギリスで映画鑑賞デビューなどと呑気に思っていたら、小説ならぬ、「映画」より奇なりな事実に出くわしてしまった。つくられた物語より面白い現実。
 そわそわしながら劇場内へ。とても長い予告編の途中だった。
本日のスポット
Benjamin Franklin House
ODEON Luxe Leicester Square