●Whitney Museum of American Art
彫刻家でもあった名家Vanderbilt家の娘Gertlude Vanderbilt Whitneyのコレクションを元にした「アメリカ現代美術」をテーマにした美術館。現建築はレム・クールハースで、スーパーモダンなマンション構造。(2015年にレンゾ・ピアノによる新館がMeatpacking districtに開館予定)教育施設も付随。
1931年に開館したため、結果的にコレクションは近代美術を含んだ現代美術を中心としたもので、パトリオティックないわゆるアメリカ美術とは異なる文脈の「アメリカ美術館」。つまり、現代美術界という一種のコスモポリタン的な空間における「アメリカ」をテーマにした美術館ということであり、ナショナルな力による歴史記述の権力構造に基づいた「アメリカ美術」館とは別にこうした文脈が存在しているのだ。両者二つの事例を比較することで、この「アメリカ美術」の二層構造を明らかにできないだろうか。
-SHERRIE LEVINE: MAYHEM
欧米の現代美術史の引用のみで作品を作り続けるSherrie Levinの個展。一点くらいならクスリと笑ってなかなか楽しいが、ここまで集められると少々うんざりした。姿形は様々でもコンセプトは全て同じだから思考の種としては飽きるし、このアイデアだけをやり続ける作家の人生を考えると残念な気持ちになる。
彼に会ってみたらあらゆる事柄を虚構で取り繕ったような人物像だったりして、ドキュメンタリーでも撮ったら面白い・・・などというのは妄想だろうか。線上の歴史の崩壊が叫ばれて久しいけど、「欧米美術界」が仮に無くなったら(全然なくなる気配もないけど)どうするのだろう。それこそ「歴史」は虚構であった、ということを象徴的に全身で表象していることになり、彼の存在自体がアートに…なんてことにもならないだろうね。「全身現代美術史家」の虚しさ。それでも虚構について妄想させられるだけ、楽しい作家ではある。
-REAL/SURREAL
さらにまた一階層下では、ある種の(と、言っておきたい)虚構を題材にしている展覧会が開かれていた。「アメリカの」という限定付きのシュールリアリズム展。いわゆる「シュルレアリスム」というときの有名作家はほとんどいなくて、アメリカで明確にシュルレアリスムを宣言していたローカルなアーティストに加え、スタイル的な影響が見られるアーティストも含めてはば広く紹介していた。
単なる印象に過ぎないのだけどすごく衝撃を受けた。リアリティのないアメリカの現実(リアル)の風景をシュルレアリスムで描くと、結果リアリズム(写実主義)になっているという可笑しな現象。ブルックリンをキリコ調で描いた作品は、なんだかブルックリンを真面目に写実したような印象。シュルレアリスムは虚構的な手法を用いることで現実を追究するところに本質があるとすれば、期せずしてそこに到達してしまっているという可笑しみ。
REAL/SURREALというタイトルがアイロニカルに響いた。
●Museum of Biblical Art(American Bible Society)
アメリカ聖書協会が二つの小さなギャラリーを持っている。一つは歴史系、もう一つは美術系。どちらも聖書をテーマにしている。
-"Jerusalem and the Holyland"
美術展の方はチェコのLutwig Blumというアーティストの個展。聖地イエルサレム を題材に描き続けている。聖地テーマパーク(リンク)で見た景色を確認する意味でも、再現度などが比較できて面白かった。
-"Book of Life: Family Bibles in America"
こちらがかなり面白かった。聖書の中でも19世紀半ばのアメリカの家庭用に普及していくFamily Bibleに焦点を当てた展示。不勉強でこういった宗教史的な知識がとても弱いので、かなり貴重な現物を目の前にしてゆっくり勉強することができた。(※展示は撮影不可だったので写真はウェブ上でみつけたもの)
Family Bible という言葉はフィランソロピストのRaynerによって作られて、それまで聖職者など一部の人たちが特権的に保持してきた「聖書」という存在を家庭用に普及させるという一種の運動として展開したものだという。聖書のヴァージョンは、アメリカ国内で初めて確立したKing James Version, KJVが基本とされる。
面白いのは、刊行当時には著作権がかなり厳しくて出版できる社が限られていたKJVだったけど、彼らは普及のため!と「これはコメンタリー(解説)であって非認可のものじゃあない(a Bible commentary not an unauthorized KJV)」と苦しい(?)言い訳でがんばったらしい。
その結果なのか、あるいはもともと英語が共通語として統一されていない移民の国だったからなのか、挿絵とか詳細な注釈が付いているものがどんどん発展した。
面白いのは、聖書のセールスマンが使ってたサンプラー(全部だと膨大なので、一冊だけ抜き刷りしてこんな特徴がありますよーって家々を巡るもの)。たくさんのオマケつき。
売り込みのコピーがまた面白い。
<20種の特徴、値段は5タイプから>
-Aタイプ($7.00):豪華アラベスクの装丁。革製。大理石模様の縁取り。高級紙。辞書なし。
-Bタイプ($16.00):超豪華アメリカ=ロシア製。全面金箔貼り。側面はパネル式。超高級紙。その他全機能つき。
訳しててもちょっと笑えてきた。
でもこの解説・注釈がすごくて、右左の頁パラレルに事典なみの解説がついている。また、登場した地名や動植物についての挿絵とか。
これなんかも、ほとんど事典みたい。実際に、「自然史(植物学、動物学)の解説有り」を売りにしてる。
こういった「お勉強=training」の歴史の上にあってのことか、やはり聖書の学習教材はアメリカが凄く豊富だと思う。
最近ではウェブサイトやiPad APPなんかも。
この手のものってなかなか日本語話者向けのものがないんだけど、アプリケーションだとけっこう出ている。(おそらくは日本のクリスチャン人口の問題。売れないと紙で出版されない)
僕はこれ↓を使っています。
上下のレイアウトで日英対訳が読めて、しかも古語訳や聖書のヴァージョン(新旧、ではなく現代語訳の種類)まで選べたりするすごい代物。
●Museum of Arts and Design
「デザインと諸芸術(たぶんArtsが複数形というところがポイント)」をテーマにしたミュージアム。
コロンバス・サークルの眼の前でハイソな感じの7階建てビル(911memorialの設計者による)。最上階もなんか高級なレストランで、この日もなんかのパーティが開かれてた。
スタジオが常時オープンで、二組のアーティストが常駐。
-"Crafting Modernism"
コレクション展からは、この館の成り立ちや姿勢がよくわかった。1945~69年を対象にして、「工芸と美術とデザイン(craft, fine art, and design)の交差点を探る」とのこと。つまり、美術史を中心に描かれてきたモダンな芸術史に、工芸とデザインを組み込もうという意図なわけ。元々は「現代工芸ミュージアム(Museum of Contemporary Craft. たぶんこの時のmuseumは”博物館”と訳すのが妥当だろう。1986- American Craft Museum)」という名だったのを2002年に改称しているのもその現れかと。
写真が撮れなかったのでお見せできないのが残念だけど、展示の区分だけ示す。基本的には時系列。
前半は三者の「交差点」が焦点
-Designer Craftsman
-Handmade Look
-Collaboration with Industry
-Design Firms in the 1940s and 50s
-Crossover in Art, Craft, and Design
-Biomorphism
-Religion, Spirituality, and Symbolism
-Jewelry and Enamels in the 1940s and 50s
後半はカウンターカルチャーによってArt/Craftの境界が融解
-Native Voice
-Craft is Art is Craft
-Blurring the Boundaries
-New Ways of Weaving
-Surrealism and Humor
-Funk Art
-Voices of Protest
-Looking at the Earth
-the Counter Culture
西海岸の「美術」の文脈ですごく見られるような、衒いなくハッピーな感じの表現スタイル(こういうの)は、こういう「デザイン・工芸」とみなされてきたようなヒッピーおよびニューエイジ系の文脈から来ているんだなあということ。スノッブでアイロニカルな現代美術の世界でも、西海岸のそれはなんか衒いもないおバカな感じの雰囲気が漂ってるなあと違和感を持ってたんだけど、ようやく合点がいった。
サンクスギビングなのにターキーも買えねぇんだよってニュースになってたが、スーパーでは高級な鳥たちが山をなしていた。