「2023年極私的映画十選/The 10 Best Movies of the Year ’23」を開催したので振り返り

 年末になるとベストやランキング云々などの記事や特番がたくさんあって楽しい。今年は機会をつくってちょっと整理と振り返りをやってみた。この一年はシネフィルの学生と出会い映画談義を続けてきたこともあり、「2023年極私的映画十選/The 10 Best Movies of the Year ’23」と題して、観客のいない二人だけのトークイベントを実施した。たいへん楽しかったので備忘録を兼ねてここに。

 

極私的映画十選
  1. キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン Killers of the Flower Moon(マーティン・スコセッシ Martin Scorsese 2023)
  2. 過去負う人(船橋淳 2023)
  3. パール Pearl(タイ·ウェストTi West 2023)
  4. 山女(福永壮志 2023)
  5. 劇場版センキョナンデス+シン·ちむどんどん(ダースレイダープチ鹿島 2023)
  6. ファースト·カウ First Cow(ケリー·ライカート Kelly Reichart 2022)
  7. アシスタント+ジョンベネ殺害事件の謎 The Assistant + Casting JohnBenet (キティ·グリーン Kitty Green 2019/2017)
  8. レッド·ロケット Red Rocket(ショーン·ベイカー Sean Baker 2021)
  9. フレンチコネクション The French Connection(ウィリアム·フリードキン William Friedkin 1972)
  10. ノープ Nope(ジョーダン·ピール Jordan Peele 2022)

 

 この十年くらいの鑑賞リストも眺めてみると、2023年は展覧会よりけっこう映画を観ていた印象。

  • 全部で311作。劇場で52作鑑賞。
  • 映画では、長編フィクションが227本、長編ドキュメンタリーが25本、長編アニメが2本、短編フィクション2本(YouTubeで流し観したものはカウントしてなかったと気づく)、短編アニメ6本、舞台映画3本。
  • ドラマシリーズでは、フィクション41作(一部鑑賞含む)、アニメ1作、リアリティショー1作、スポーツショー1作(Toy Story特番なのでアニメでもある)。

選評とイベントの振り返り

 「極私的」というのは、イマココで楽しんだ作品、コンテクストありきで作品を選ぶという意図でつけたもの。作品の良し悪しとは別に「いま何かを考えるのに大切だと感じる」という点で選んだ。公開時の「祭り」への参加感覚はひとつの要因で、クラファンで応援した「センキョナンデス」「シン・ちむどんどん」や「過去負う者」はその意味で楽しかった。時事問題やライフイベントありきの感覚も大きな基準。今後鑑賞しつづけそうな作品にも出会えた。公開年は関係ないとしたけど、予想以上に今年劇場で観たものが多かった。
 アメリカ映画が圧倒的に多い。選挙や政治系ドキュメンタリーは良作の豊作年だった。意外にドラマシリーズを多く観ていた。配信形式が多様化して3時間くらいのドラマの「ミニシリーズ」だと「映画」との区別が曖昧。YouTubeでも意外な良作があり、流し見してて記録してなかったなと気がついたり。流通やメディア形式の多様化も改めて実感する。
 数年少しずつ進めているハリウッド映画史をなぞる鑑賞の一環で、今年初頭からはとくにHollywood Renessance、New Hollywood(アメリカン・ニューシネマ)の作品をよく観た。その前後の映画史について線で理解できたような感じがするのと、近年の作品が引用したり下敷きにしたり(しばしばつまらないEaster Eggパロディとしている)ものとして、それらの古典が見える感じもする。ハリウッド映画は良かれ悪しかれ歴史的文脈が強い。
 主な仕事だった執筆中の書籍のテーマとの関係で、「社会批評性と、娯楽性や芸術性のあいだの相剋」について考える素材となる作品に意識が向いていた。後者つまり「作品としての質」を蔑ろにした時、それは単なるぼやきだったり、よもやイデオロギー的な党派性へと堕ちていってしまう。そうした作品は不健全なコミュニケーションを広げるだけだろう。ひと言でいえば、公共性・民主性がたいせつ。全体としてはこんなことを考えていた。
 また映画鑑賞という行為も伝える目的で、授業では話題作を積極的に扱うことにしたので、作品のことを時間をとって考えたり言葉にする機会にもなって、良いフィードバックになった。選評イベントも盛り上がり、アートハウス好きのドラマーGenki氏とのケミストリーもよく、とても面白かった。何かの形で定期化したいところ。
 映画や展覧会などけっこうな数を見るものは記憶が曖昧になるし、年の区切りに振り返ると自省する機会になる。次年度はサバティカルで一年間ずっとロンドンとフィラデルフィアなどにいる予定なので、鑑賞対象もずいぶん変わってくるだろうなあ。

 

選考基準
・今年観た作品。公開年は問わない。複数回目で見直したものも含む
・上映や鑑賞方法は問わない。劇場、配信、各種メディア、4Dなども含む
・「映画」に限る。シーズンもののドラマやドキュメンタリー映画は含まれるが、ジャーナリズム的映像作品は除く(“Movie” or “cinema.” Not “content.“)
・部分鑑賞は含まない。寝落ちした際の睡眠は「鑑賞」の一部とする
・「十選」なので序列はつけない。ベストオブベストは選んでもよい
・他の選者の作品を年末年始の鑑賞のおともに🎬
 
追記:坂井元気氏による10+1選
  1. パーフェクト·デイズ Perfect Days(ウィム·ベンダース Wim Wendars 2023)
  2. The African Desperate(Martine Syms 2022)
  3. ドニー·ダーコ Donnie Darko(Richard Kelly 2001)
  4. SAFE(トッド·ヘインズ Todd Haynes 1995)
  5. TAR/ター(トッド·フィールド Todd Field 2022)
  6. 別れる決心 (パク·チャヌク 2022)
  7. アンダー·ザ·シルバーレイク Under the Silver Lake(David Robert Mitchell 2018)
  8. Rotting in the Sun(Sebastian Silva 2023)
  9. Falcon Lake(Charlotte Lebon 2023)
  10. 女の子ものがたり(森岡利行 2009)
  11. Leave the World Behind 終わらない週末(Sam Esmail 2023)


 タイトル画像は、今年最初に観た作品(=『イージー・ライダー』)とイベントの日までに最後に観たもの(=『Kids Return』)です。