チョコレート・ミリタリー・ビジネス:『チョコレートの帝国』

Joel Glenn Brenner, "The Emperors of Chocolate: Inside the Secret World of Hershey and Mars." Ramdom House, 1999(ジョエル・ブレナー『チョコレートの帝国』みすず書房、2012年).

チョコレートの帝国

チョコレートの帝国

Hershey'sのハーシー社、M&M'sのマーズ社というアメリカ合衆国の、そして世界に覇権を誇る2大お菓子メーカーの歴史物語。本国アメリカでは「国民食」のような位置づけにありながらも、レシピだけでなく企業そのものについても極端な秘密主義を守ることで国民の「垂涎」の的になっているらしい。

本著者はジャーナリストである。縁あって公式に取材することを許されたことで出版に至った。授業の課題だったのだけど、研究書ではなないこの本がいかなる分野の歴史研究として位置づけられるのかということを議論した。

●American History/Transatlantic History/Local History
●Personal History/Biography/Oral History
●Business/Corporate History/Corporate Anthropology
●Food Study---Chocolate History
●His of Technology
●Market/Industrial History
●Philanthropy
●Military/War Studies
●Labor History
●Utopian Studies
●Suburban History

かなり多彩。こういうふうに多分野に研究を位置づけられるのも一種の強みだろう。

まわりにコーティングがされたM&Mチョコが暑い地方に進軍する軍隊のために開発されたように、チョコレートは戦争の歴史と密接な関わりがあり、菓子企業は戦争商人としての側面も大きかったという。

その一方で面白かったのは、また、ビジネスの世界の用語が「戦争/戦闘/軍事」用語の比喩に満ち満ちている点。「覇権を誇る」と上に書いたように。例えば著書でも「独裁者」「探検家」「征服者」(p85)などの言葉がよく出てきたし、タイトルの原題は「チョコレートの帝王」、邦題は「帝国」である。