はっけん・はっくつ はくぶつかん(拙訳):Discovery Museum

朝、ミュージアムから電話が入って、一時間半後に伺うことに。こりゃ大変。体調心配してる場合じゃない。急がなくちゃ。

やっぱりgoogle mapの経路検索より時間がかかって、30分遅れで到着。

いきなりの申し出で予約したにもかかわらず、遅れたことも気にせず愛想よく受け入れてくれた。

 

●Discovery Museum

 [運営・背景]

・教育組織、CSI, Creation Studies Instituteの副次教材という位置づけの教育ミュージアム

・設立は2005年で、2007年に(オフィスとともに?)ここに引っ越してきた。

・設立の経緯は、創造説に基づいた古生物学・考古学的な資料的根拠を獲得するために、化石がよく出土するフロリダ州のBonevalley(Polk countyは化石で有名らしい), Arcadiaなどでマンモスなどの化石をCSIが発掘したことによる(1996,97,98年)。ホンモノが手に入ったからそれを公開すると同時に、並行していた学校(塾。※collegeやhigh schoolではない)教育の教材にしたというわけだ。

・そのため、ミュージアムとしての「教育・蒐集・研究」それぞれの機能について訊くと、教育中心で研究は限定的とのこと。触れなかったためコレクション的側面はほとんどない模様。

・公開は土曜日のみと予約制。僕はその土曜日を移動で逃したため再度予約を入れた。また、毎月第三土曜日はイベントを開いて、30-40名程度の参加者で割と娯楽的な勉強会を開いてるという(参加者の割合を聞くとまちまちとのことで、子供ばかりでもないということ。一応「半々」という答えをくれた)。

・その他、音楽スタジオを持っていてラジオ番組かなにかを撮っているようだ。(この点再度調査必要)

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[構成]

・メイン展示室(5*15㎡程度か。小規模。)

・サブ展示(バタフライの展示)

・子供向けプレイルーム

・ギフト、ブックショップ

[スタッフ]

・Directorで展示教育も担当するTom DeRosaさんは、気さくな人柄で、僕の背景(日本人であったり、仏教/神道を基礎として大学でミュージアムアメリカ文化を学んでいること。そう自己紹介した)をとても尊重してくれ、丁寧な語り口の気のいい人物。北部ケンタッキーの"Creation Museum"での展示やレクチャーの語りに見られるような排他性はまったくない。進化論に対しても、単に「自分たちは信じない」というような立場。割と穏健な保守主義らしい。

・彼は博士号をもっているわけではない。教育背景について尋ねると自分で勉強したという回答。教育がとても好きで、土曜の週一回(と予約制)で開いている、ここ以外でも近所の高校やカレッジで教えているということ。また、もう一人の教育担当はKerri Trapaniさんで、大学で初等教育を専攻した彼女は、主に子供向けの授業教育を担当しているとのこと。彼女も高校や大学で少しだけ教えている。トムは教材をいくつか書いていて、入門編の一冊を手渡してくれた。

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[展示内容]

・展示のナラティヴは、聖書原理主義的な創造科学をオリジナルの"CSI"スキーマ(=Creation, Separation, Invitation)を使って紹介するもの。Tomの"testimony"(=通常は信仰を始めた体験を指す言葉だが、創造科学者たちにはいかに進化論科学よりも創造科学を信じるに至ったかを語る際に使われることが多い)にあるとおり、もともと進化論科学を信じていた彼が、あるとき「信仰を科学と混同している人が進化論者には多い。つまりそれは『進化論』という別の信仰に過ぎない。そのため、自分は創造科学という本当に正しい根拠がある科学を教えなくてはいけない」と気がついたという。これに基づいて彼が考案したのがCSIスキーマで、全てのものは創造に基づいていて(Creation)、人間は男/女に別れたのちアダムとイブの堕罪の結果、原罪を追う、善悪二元論的世界に陥り(Separation)、そしてそれを救ってくれるのは神による世界でありそのために何をすべきか(Invitation)という構成。非常にクリアカットで、Creation MuseumのKen Hamによる7C'sの別バージョンのようである。

・各展示は、主に創造説の根拠についての資料。例えば、鳥の羽のベロアの美しさ、「完璧に」シンメトリーな魚類の化石、化石化の過程の凄さ(サンディエゴの創造博物館とは異なり、Quick Burierという言葉を使っていた)を「論理的」に考えると神の偉業としか考えられない、という論理。人間の発明品も神が創った自然・動植物たちが既に持っているものをヒトが模倣したもの(例えば、ウナギから電気を、鳥から飛行機、神の創造から医療、など)。進化論は誰にも証明できない仮説のひとつだとしている。「デザイン」という言葉で神の力を強調する(この点、Inteligent design theoryの一種と見なせる)。

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・また、聖書における恐竜の存在の根拠として、「ドラゴン」が載っているという説明。ドラゴンは世界中の神話にあまねく登場する。そのため、歴史的事実だと考えられるという。

(※註:創世記「一章21節」における記述のことだと思われる。しかしTanninは水性怪獣のこと一般を指し、時にジャッカルを指す言葉でもある、英訳だとdragon, sea-monster, serpent, jackalと文脈に依存して多様。もし恐竜と同類視される蛇を指すとしても、蛇には通常Nāhāšという言葉が使われ、明確にTanninが蛇を指すのはモーセのエピソードで二件程度確認できるのみである。)

・本博物館に特徴的なのは、化石をウリにしている点。フロリダという化石がよく採れる土地で、いくつか独自に発掘した化石を真正さを高めるのに利用している。

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[形式]

ミュージアムは、基本的には教育機関の一教材という位置づけ。娯楽としてパブリックにオープンしているというよりは、CSIを利用している人たちのための場所。土曜日は授業も少ないので開いている。

・かなりの程度、Hands-on(経験重視の触れられる展示)なミュージアム。そのため理解しやすくインタラクティブで娯楽的な展示が多いが、特に子供向けではない。聞けば、授業が主に子供向けなので大人向けに設計した、でも子供も楽しめるようにもした、とのこと。

・狭いスペースは教材用に設計されていて、エントランスホールも人々が入ってツアーガイドを聞きやすいように設計したという。サブ展示も別室にわかれているので動線もほとんど機能していない。

 

【※追記】

神についての理解の方法という観点から分類すれば、「一神教(エホバの神)の理解の単純化(generalization)」という超教派的な方法論が、アメリカでは(他の国はどうだろうか?)極めて一般的なのではないかと思うようになった。

つまり、まず「神が全てを創った。だから全ての現象はそこに帰依する」という信念が基礎にある。そして、その「全ての現象」と神の教え(聖書)との齟齬をどう調停するのかは各立場による、と。

創造論キリスト教原理主義はその一派生型という風にもいえる。とすれば、実数的な意味だけではなく、思考体系としてもまったく「特殊」な存在とはいえないかもしれない。不可知論者などの合理主義もこのグラデーションとして捉えるべきなのではないだろうか。

今回、アメリカ研究学会での保守主義研究者たちの態度、ホテルの受付など一般に見られた保守派への態度などを感じて、また、宗教一般についての感覚を様々に見てきて、創造科学とは宗教とか科学とかそういうことを超えた、より大きな問題だという気がしている。

キーワードは、相対主義、コミュニケーション・スタイル、政治的正しさ、アメリカの民主制、草の根運動あたりだろうか。