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思いがけず機内放送で山下敦弘の『マイバックページ 』を発見した。まさかここで観られると思っていなかったので、絶対ゆっくり観たい!と仕事を慌てて終わらせる。すごい効率で仕事が片付いてゆく。おまけにすごくいいアイデアもうかぶ。かじこ台割、西武美術館論文の直しなんかがここでできてよかった。モード切り替えの話もそうだけど、こういう、身体をコントロールする術を身につけたいな。

 

が。そんなことは実はどうでもよくなっている。 この映画が余りによくて、余りに自分に突き刺さって。ウキウキしながら見始めたのに、すぐに心が苦しくなってきたのを感じた。なにがそんなに辛いのかをわからずに、今、涙のシーンで映画が終わって呆然と書き殴っている。

 

そういえば前に見たのは、山下監督の新作が公開されたというニュースさえも逃していたような折で、「素」の状態だったのを憶えている。この夏には山下監督の映画を見返していろいろと考えた。『ユリイカ』の山下特集で非常に秀作な評論も 何本も読んだ。なのに、この突き刺さってしまう鑑後感は一度目とまったく変わることがないのは何故だろう。ラストシーンの涙が涙を誘ったことも、今回も全く変わらなかった。

 

いま突然、小沢健二が聴きたくなってランダム再生しながら苦しさの理由を考えている。おそらく、この映画が、「『本当』のことを考えようとすればするほど、そのことからは遠ざかってしまう」ことをテーマにしているからじゃないかと思う。「白か黒しかこの世にはないと思っていた」男の物語。"He is a fake." 英語字幕が響く。調査旅行に行くたびに、「本当」のことを考える悦びを覚えながら、それを保つ痛みと脆さ、危うさと虚しさを感じてきた。日本発のフライトで、この映画に心を刺されてしまったことは出来過ぎている。

 

 

「いつもいつも君が恋しくて、泣きたくなる」

「…わけなんかないよ」

小沢健二「恋しくて」) 

 

 

泣きたくなるほど恋しいと、否定するしかないんだよな。

辛くて楽しい旅の始まりの気がした。

  

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